第105話「お義姉さんは、お隣のお部屋に――」

「――駄目だ、繋がらなかった……」


 俺は溜息混じりにシャーロットさんの元へと戻る。

 なんとなく予感はしていたが、どうやら俺からの電話に出るつもりはないらしい。


「どなたにお電話されたのでしょうか……?」

「ん? あぁ、知り合いのメイドさん、かな」


 名前を言ってもわからないだろうと思い、俺は心配をしてくれるシャーロットさんに笑顔でそう伝える。

 すると、彼女は少しだけ不思議そうに口を開いた。


「お義姉さん、ではないのですね……」


 彼女がそう呟いた時、彰がとても意外そうに――そして、驚いた表情で俺の顔を見つめてきた。

 まさか、俺が花音さんの話をするとは思わなかったようだ。


「あぁ、あの人には……連絡をとれないからね」


 それは、電話番号を知らないというわけではない。

 過去に酷く傷つけてしまったためこちらから連絡を取りづらいというのが理由だった。


 もちろん、察しがいい彼女は俺の言葉からそのことを理解してくれている。


「では、メイドさんにかけ直すしかありませんね……」

「いや、それは無駄だと思う」

「どうしてですか?」

「着拒――着信拒否、されてるんだよ……」

「「――っ!?」」


 俺の言葉を聞き、凄く驚いた表情をするシャーロットさんと彰。

 まさか着信拒否をされているとは思わなかったんだろう。


 ――もちろん、俺も思わなかった。


「メイドさんって……草薙さんだろ……? あの人が明人にそんなことをするのか……?」

「家を出てから電話をしたことがなかったから、その時にされてたのかもしれないな……」

「ですが、それではどうなさるおつもりで……?」


 どうするのか――そう尋ねられた俺は、黙って考え込む。


 家に帰って話すしかないのか……?

 もしかしたら、そうさせるために着信拒否をされたということも……。

 だけど、今家はバタバタになっているんじゃ……?

 それに、俺が帰ったところで何かなるわけでもないし、邪魔者扱いされるだけの気も……。


 いろんな可能性を考慮しながら俺は考えを進める。

 しかし、どれも悪い方向に考えてしまい、行動に移すことに躊躇ってしまった。


 すると、俺のことを黙って見つめていたシャーロットさんが何か言いたそうにソワソワとし始める。


「どうかした?」

「あっ、その……明人君は、そのメイドさんとお話しされたいのですよね……?」

「まぁ正確にはお義姉さんのほうだけどね」


 花音さんに繋いでもらおうと思って有紗さんに電話をしただけであって、今回の件に関しては花音さんと話す必要がある。

 明らかに今回のことを仕掛けたのはあの人だ。

 温和な人ではあるけれど、怒らすと有紗さんが比にならないくらいに恐ろしい人になる。


 花音さんは優しい人ほど怒らせると怖いを典型的に行くような人なのだ。

 ましてや策を巡らせることが大好きな人でもあるため、やるとなれば容赦なく相手を追い詰めるところまで持っていく。

 今回彼女が行動を移した理由はわからないが、こんな暴挙にも近いほどのことをするくらいに父親は花音さんを怒らせてしまったらしい。


 もしかしたら、俺に無理矢理結婚話を持ち出したから――ということも一瞬だけ考えたけれど、さすがにそれだけではあの人はこんなことをしない。

 ましてや、反対しているのであれば有紗さんを俺にけしかけるようなことをしてはいないだろう。

 有紗さんを操縦できるのは花音さんだけであり、有紗さんは花音さん以外の言うことはあまり聞かな――あれ……?


 ふと頭を過った言葉。

 そのことに俺は凄く違和感を覚えてしまった。


 しかし――。


「そのお義姉さんなのですが……おそらく、お隣のお部屋におられるかと……」


 シャーロットさんからとんでもない言葉が飛び出したことで、俺はそれどころではなくなってしまった。


「えっ、どういうこと……?」

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