第98話「彼女としての主張」

「はい、じゃあ明人君と彼女さんは真ん中でお願いします!」


 次の駅で降りると、代表の子がスマホを構えながら俺たちに立ち位置を指示してきた。

 どうやら最初は彼女が撮影をし、交代でカメラマン役を回すようだ。


 そして、こんなところで写真撮影をしようとしているせいで周りの人たちも興味を抱いて注目をしてきている。

 中には俺たちの事に気が付いた人たちもいるようで、慌てたようにスマホを取り出して構えていた。


 ――いや、うん。

 まじでいい加減にしろよ、理玖……!


 俺はありえない注目を浴びるきっかけになった、理玖に対して心の中で文句を言ってしまう。

 理玖のおかげで最悪な展開は避けれたとはいえ、その対価にしてはいくらなんでも払いすぎている気がする。


 現に、応援をしてくれている女の子たちはまだいいが、そうじゃない男たちの嫉妬の目がやばい。

 下手をすると俺は消されるんじゃないかと思うほどだ。


 おそらくシャーロットさんのような美少女にくっつかれている事と、女の子に囲まれているこの状況が気に入らないのだろう。


 ……うん、今日から夜道には気を付けよう。


「明人君、こっち向いてくださ~い!」


 周りの男たちの目に気を取られていると、スマホを構えている女の子に呼ばれてしまった。

 この囲まれた状況でケロッとした表情をしている彼女は凄い。

 きっと物怖じしない性格なんだろう。


 今だけは、あの神経の図太さが羨ましかった。


 大勢に注目されているというのに呑気な子を前にして、俺は自然と苦笑いが出てきてしまうのだった。


「ほらほら、笑顔が引きつってますよ~! かわいい彼女さんのお隣でしょ~! 幸せな笑顔見せてくださ~い!」

「ちょっ、本当にそういうのはやめてください!」


 カメラマンの彼女の煽りで周りの熱が5度くらい上がったのを肌で感じながら、俺は慌てて彼女を止めようとする。

 これ以上下手に注目をされるのはまじで勘弁してほしい。


 俺にくっつくようにしているシャーロットさんなんてもう顔が真っ赤だ。


「照れない照れない! では、撮りますね~!」


 俺の言葉を軽く受け流し、女の子は元気よく右手を上げる。

 見た目的には俺と同じか、少し年上に見えるのにまるで子供みたいな女の子だ。


「1足す1は~?」


 そして、お約束の掛け声をしてくる。

 これ、大勢の前で答えさせられる身にもなってほしいものだ。


 しかし、答えなければそれはそれで空気が読めない奴になってしまう。


 だから俺は仕方がなく答えようとするが――。


「――ごめんなさい、明人君」


 何やら、シャーロットさんの小さく謝る声が耳に入ってきた。


 そして――。


「――ちゅっ」


 シャッター音が聞こえたと同時に、シャーロットさんの唇が俺の頬へと触れた。


 瞬間――。


「「「「「きゃ~!」」」」」


 駅内を、四方から沸いた黄色い歓声――いや、大歓声が包み込んでしまった。

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