第89話「周りが見えていない二人」

「さて、どうしようかな……?」


 目的地を大幅に通り越した俺は、腕に顔を埋めているシャーロットさんを横目に困っていた。

 折角なら広島を案内――といきたいところだけど、中学二年生の学校行事かサッカーをやりに来た事しかないため観光スポットがわからない。

 いったん岡山に引き返すか……。


「ここって広島県、なのでしょうか……?」


 顎に手を置きながらどうしようか考えていると、シャーロットさんが顔を上げて尋ねてきた。

 先程の事が影響しているのか恥ずかしそうに上目遣いになっていてかわいい。


「うん、そうだよ?」

「それでは……宮島、というところに行ってみたいですね……」

「宮島? あぁ、安芸あきの宮島か」


 安芸の宮島――別名、厳島とも呼ばれる日本三景の一つだ。

 厳島神社と呼ばれる平清盛が海の上に建てた大きな社殿があったり、綺麗な紅葉がたくさん見える紅葉谷公園というところがあったりと観光スポットがたくさんあるといえる。


 だけど、紅葉に関してはもう秋とはいえ綺麗に咲く時期はまだ少し先だし、何より同じ広島とはいえ宮島は福山からだとかなり遠い。


 だからできれば次の機会に、としたいところだが――。


「えっと、ごめん……同じ広島県でもここからニ時間以上、下手すると三時間くらいかかるんだよ」

「そうなんですね……。それではやめておきましょう」


 移動にかなり時間がかかるとわかると、シャーロットさんは聞き分けがいいので諦めてくれた。

 だけど、やはりどこか残念そうなので今度もっと時間がある時に連れて行ってあげたいと思う。


「ごめんね、また次の機会にこよう。それこそ、次の日が休みとかの日にさ」

「――っ! そ、そうですね、そしたらお泊りができてのんびりできますもんね……!」


 俺の言葉を聞いたシャーロットさんは嬉しそうに表情を輝かせて何度も頷いた。

 しかし、俺はそんな彼女の言葉に思わず首をかしげてしまう。


「えっ?」

「えっ?」


 俺が首を傾げた後、彼女もキョトンとした表情で首を傾げた。

 そしてお互い見つめあっていると、何かに気が付いたシャーロットさんの顔がみるみるうちに真っ赤になる。


「〜〜〜〜〜っ!」


 そして、俺の腕にまた顔を押し付けて悶え始めた。


「いや、うん、ごめん……」


 あまりにもかわいそうな事をしてしまったと思い、俺はシャーロットさんに謝った。


 俺が言ったのは疲れが出ても次の日が休みなら問題ないという意味だったのだけど、シャーロットさんは別の意味で捉えてしまったらしい。

 そして一人で勘違いした事に対して恥ずかしくて悶えているのだ。


 勘違いをさせるような事を言った俺が悪いし、咄嗟にフォローもできなかったので本当にかわいそうな事をしてしまった。

 ただ、恥ずかしさに悶えるシャーロットさんもやっぱり凄くかわいい。

 そんな事を言えばまたいじわるだと言われてしまうのだろうけど、かわいく見えてしまうのは仕方がないと思う。


 とりあえず、慰める意味を込めて頭を優しく撫でてみた。

 すると、シャーロットさんは顔をあげないまま頭を俺の手に押し付けてくる。

 どうやら気にいってもらえたらしい。


「――ねぇ、見てあの子たち」

「わぁ、ラブラブだぁ……」


「あの銀髪の子、凄くかわいくない?」

「ボーイッシュなところもいいね! あぁいう清楚系な子がするとギャップで更に魅力的に見えるきがする!」


 ――うわっ、シャーロットさんに気をとられていたら知らない間に注目を集めてる……。


 やはり彼女が目立つ容姿をしているからだろうな。

 こればかりはもう慣れるしかないのか……。


「シャーロットさん、移動したいんだけど大丈夫……?」

「は、はい……」


 声をかけるとシャーロットさんは俺の腕に顔を埋めたまま頷いてくれたので、とりあえず場所を移すことにする。

 調べてみるとここから三十分ほど移動したところにレジャーランドがあるみたいだし、折角だからそこに行ってみよう。


 そう考えた俺は、相変わらず顔を上げてくれないシャーロットさんを連れて移動するのだった。


「――――――あれ、彼は……明人、か……?」

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