第79話「青柳君は、いじわるです……」
「――んっ……」
あれからどれくらい経ったのだろう?
カーテンの隙間から日差しが入ってくるようになってから数時間が経過した頃、ゆっくりとシャーロットさんの目が開き始めた。
「起きた?」
「…………」
声をかけてみると、彼女は眠たげな
そして、まるでガチンッという音が聞こえてきそうなくらいに固まってしまった。
「…………」
やっと動き出したかと思うと、今度はパチパチパチパチと高速に瞬きを始める。
と思って見つめていたら、最後はみるみるうちに顔が真っ赤になった。
挙げ句の果てにはバッと顔を俺の胸へと押し付けてくる。
「……おはよう」
「お、おはようごじゃいましゅ……」
とりあえず挨拶をしてみると、シャーロットさんはプシューッと音が聞こえてきそうなくらいに横顔を赤く染めて挨拶を返してくれた。
挨拶で噛んだ事を踏まえてもよほど動揺しているらしい。
「えっと、記憶……あるかな……?」
シャーロットさんのこの行動が何によって起きているのか確信がない俺は、念のためシャーロットさんに尋ねてみた。
「忘れさせてください……」
どうやら、彼女にも昨日の記憶はあるらしい。
だからこそのこの悶えようというわけか。
「昨日のは……あれです、酔っ払ってたのです……! 一夜の過ちというやつです……!」
シャーロットさんはよほど昨日の事はなかった事にしたいのか、彼女らしくない言い訳を始める。
「いや、一夜の過ちにしないといけないほどの事はしてないし、そもそもお酒飲んでないじゃん」
「わ、私にとっては忘れて頂きたいほどにとても恥ずかしい事なのです……!」
そうは言うけれど、シャーロットさん今も俺の腕の中にいるんだけどな……。
しかも顔は俺の胸に押し付けてきているわけだし、現在恥ずかしい事をしている自覚はないのだろうか?
「まぁ驚きはしたけど……そんなにならなくていいんじゃないかな? その……凄く、かわいかったし……」
俺は少し言い淀みながらも思っている事を伝える。
昨日のシャーロットさんを率直に表すなら、かわいすぎる――だ。
かわいすぎて理性が飛びそうにはなっていたけれど、変な事はいっさいなかった。
むしろ心臓さえ持つのならずっと相手をしていたかったくらいだ。
「ほ、本当に昨日はどうかしてたのです……! あ、青柳君が頭を撫でてくださって、それでも頑張って甘えないように我慢していましたのに、あんな嬉しい事を言われたら我慢なんてできませんよ……! ですから少しだけ発散させようとお胸をお借りしたのに、そしたらもう止まらなくなっちゃったんです……!」
そう言いながら俺の胸に顔を擦りつけて《いやいや》をするシャーロットさん。
身悶えずにはいられないくらい恥ずかしかったらしい。
どうしよう、かわいすぎてやばい。
ドキドキしすぎて心臓が痛いけれど、それ以上に幸せだ。
「――んっ……く、くすぐったいです……」
あまりにもシャーロットさんがかわいくて我慢ができなくなった俺は、思わず彼女の頬を撫でてしまった。
熱を含んだすべすべで触り心地がいい肌はいつまでも撫でていたくなるくらいに気持ちがいい。
同時に、身をよじりながら恥ずかしそうにトロンとした瞳で見上げてくるシャーロットさんを前にして、俺は自分がとんでもない事をしている事に気が付いた。
「ご、ごめん……!」
やらかした、と思った俺は慌てて手をのける。
しかし――。
「あっ……」
撫でるのをやめると、シャーロットさんはとても名残惜しそうな声を出した。
そして俺の右手を視線で追っている。
これは……。
「もう少し、撫でてほしかった?」
「…………青柳君は、いじわるです……」
確認のために聞いてみたのだけど、わざわざ言葉にさせて辱めようとしているように捉えられたのか、シャーロットさんは恥ずかしそうに俺の胸に顔を押し付けてくる。
そして少しすると、熱がこもった瞳で俺の顔を見上げてき、小さくコクリと首を縦に振った。
もう、かわいすぎて本当にやばい。
俺はシャーロットさんのかわいさに頭が沸騰しそうになりながらも、彼女の要望通り再度頬に手を伸ばす。
すると――。
『――わぁあああああん! おにいちゃんどこぉおおおおお!』
絶対的支配者の泣き声により、俺たちはそれどころじゃなくなるのだった。
――というか、いつの間にかシャーロットさんじゃなくて俺になってるし……。
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