第78話「離れてくれない彼女」
――シャーロットさんを膝の上に座らせ、優しく抱きしめ始めてから一時間が経過した。
その間なにをしていたかというと、腕の中にいるご機嫌な様子のシャーロットさんが俺の胸に頬ずりをしているのをただ眺めていただけだ。
一応、彼女の要望で頭は撫で続けているが。
まるでエマちゃんが乗り移ったのではないかと疑いたくなるくらい甘えん坊と化しているシャーロットさん。
はっきり言って、かわいすぎてやばかった。
むしろここまで理性を保てている俺を誰か褒めてほしい。
どうやら俺は意外と意思が強いほうだったみたいだ。
ただ、さすがにそろそろ限界なので俺は行動に移すことにする。
「えっと、そろそろ今後について話したいんだけど大丈夫かな?」
声をかけると、シャーロットさんはもっと甘えたそうな表情で俺の顔を見上げてくる。
熱を秘めたトロンとした瞳と、真っ赤に染まった顔が相まってとても色っぽい。
うん、この子はどこまで俺の理性を壊そうとしてくるのか。
そろそろ本当に限界だ。
「もう少し、こうしておく……?」
「……いえ、大丈夫です……」
大丈夫と言いつつも、顔を俺の胸に押し付けるシャーロットさん。
言ってる事とやっている事が違うのだが……。
「シャーロットさんが話したかったのは、これから俺たちの関係をみんなに打ち明けるかどうか、かな?」
とりあえずかわいくて仕方がないので俺はシャーロットさんにツッコミは入れず、彼女を抱いた状態で質問をしてみる。
すると、彼女は恥ずかしそうにしながらもコクコクと首を縦に振った。
どうやら合っていたらしい。
「シャーロットさんはどうしたいの?」
俺はまずシャーロットさんの意見を聞いてみる。
こういった事はシャーロットさんの気持ちを優先したいし、俺としてはそこまでこだわりはない。
打ち明けることになればかなりの嫉妬をもらう事になるだろうが、その分シャーロットさんと一緒にいられる時間が増えるからな。
どちらが大切かなんて比べるほどでもない。
逆にシャーロットさんが隠したいと言っても問題はなかった。
周りから変な嫉妬を買うことはないし、裏でだけ彼女と仲良くしているというのもそれはそれでありだ。
なんというか、この関係を続けてきて思ったのは秘密な関係というのがどうやら俺は好きらしい。
別に、変な性癖があるわけではないが。
「私は……」
シャーロットさんの顔を見つめながら考え事をしていると、シャーロットさんは恥ずかしそうにチラッと俺の顔を見上げた後指をモジモジとさせ始める。
うん、やっぱりかわいくて仕方がない。
「私は……皆さんにお伝えしてしまいたいです……」
それは、凄く意外な答えだった。
どちらでもいいと思ってはいたが、彼女の性格を考えると隠す事を選ぶと思っていたからだ。
少なくとも、自分から発表するような道は選ばないと思っていた。
しかし、どうやら彼女はみんなに言ってしまいたいらしい。
ただ自慢をしたいわけじゃない事はわかるが、その真意はいったいなんなのだろうか?
「そっか、じゃあみんなに伝えてしまおう」
シャーロットさんの考えが気になりはしたが、ここで聞いてしまうと俺が否定的な意見を持っていると思われてしまうため、俺はニコッと笑顔で彼女の言葉を受け入れた。
しかし――。
「〜〜〜〜〜っ!」
なぜか、シャーロットさんは俺の腕の中で悶え始める。
先程から情緒不安定なのだが、彼女は大丈夫なのだろうか……?
「だ、大丈夫?」
「…………」
一応聞いてみると、顔を両手で塞ぎながらシャーロットさんはコクコクと頷いた。
全然大丈夫なようには見えないのだが、彼女が大丈夫と言うならそうなのだろう。
「……この距離は、破壊力が凄すぎます……」
シャーロットさんは俺の腕の中で何やらブツブツと言っているが、生憎声が小さすぎて聞き取れない。
ただ、指の隙間から見える彼女の瞳は相変わらず熱がこもったのようにトロンとしていた。
「えっと、そろそろ離れようか?」
さすがにこれ以上は本当にまずいと思った俺は、シャーロットさんを優しく膝の上から下ろそうとする。
しかし、彼女は下りるどころかギュッと俺の胸にしがみついてきた。
「今日はもう……離れたくありません……」
消え入るような声で囁かれた言葉。
こんなことを言われて離れられるわけがない。
――結局、ウトウトとし始めたシャーロットさんが寝るまで俺は彼女を抱きしめ続け、その後も朝が来るまで彼女を放す事はできないのだった。
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