第74話「彼女が選んだのはゴスロリ服」
「――ど、どうでしょうか……?」
あれから自分で選んだ服を着たシャーロットさんが、更衣室のカーテンを開けて聞いてきた。
頬を赤く染めているのは直接感想を聞くのが恥ずかしいのかもしれない。
彼女が今着ているのは、パープルのシャツブラウスに、ブルーのスカートだ。
シャツブラウスのボタンを上三つ開け着崩すようにして着ている。
そうすると、下に着ている白のシャツが見えた。
当然見せる用ではあるが、彼女にしては少し冒険しているように見える。
だけど、普通によく似合っていてかわいい。
「うん、似合ってると思うよ」
「そうですか……では、次ですね」
似合ってると言ったにもかかわらず、なぜかシャーロットさんは一旦服を着替え直して別の服を探しに行った。
基本更衣室は占領出来ないため一セットずつしか試着は出来ないのだが、わざわざ変えに行くという事は本人は納得いかなかったのだろうか?
最初更衣室に入る時はモジモジとして恥ずかしそうだったのに、随分と乗り気になったものだ。
「――これはどうですか?」
そう言って更衣室から出てきたシャーロットさんは、ホワイトのシャツブラウスの上にブルーのスタジャンを羽織っており、下はブルーのワイドパンツを履くというファッションだった。
どうやら今度はボーイッシュに寄せてきたらしい。
どういう心変わりか知らないが、色々と挑戦しているようだ。
……俺、実はボーイッシュって結構好きなんだよな。
特に彼女みたいな清楚な子がボーイッシュの恰好をしていると、ギャップからか凄くドキドキする。
「うん、それもとても似合うよ」
「むぅ……では、次ですね」
おかしい。
褒めているはずなのに、なぜか不満そうな表情をされてしまった。
若干頬を膨らませながら次の服を探しに行ったシャーロットさんを見つめながら、彼女の真意がわからない俺は首を傾げる。
少しして、シャーロットさんは新たな服を持って更衣室へと入って行く。
その際に一瞬めちゃくちゃ変な服が見えたような気がしたが、シャーロットさんの事だからきっと見間違いだろう。
だがしかし、次に出てきたのは――ゴスロリ服に身を包む、シャーロットさんだった。
白と黒を基調とするメイド服にも見えるような服。
全身ヒラヒラが付いていて、誰がどう見てもゴスロリ服だ。
それになぜか、シャーロットさんはご丁寧にヘアゴムを使って髪型をツインテールにしている。
どうして髪を括らない彼女がヘアゴムを持っているのか?
ツインテールチョイスはいったいなんなんだ?
――など色々と疑問に思うが、一番聞きたいのは、なぜゴスロリ服をチョイスしたのかという事だ。
あれか?
この子はまだ俺の事をロリコンだと思っているのか?
確かに証明自体は今日の最後にするつもりだから出来ていないけど、いくらなんでもこれはないだろ……!
――でも、凄く似合ってることが怖い。
見た目は大人っぽいのに、元々外国人だからかゴスロリ服が凄く似合う。
いや、うん……いくらなんでも、かわいすぎるだろ……。
「これ、かわいいですか……?」
「あっ、えっと……うん、とてもかわいいよ」
一度にたくさんの処理をする事になった俺の脳は上手く機能しなくなったようで、シャーロットさんの質問に率直な感想を述べてしまった。
今まで恥ずかしくてかわいいという言葉は使わなかったのだが、不意にされた彼女の質問につられて言ってしまったのだ。
「やりました、かわいいって言ってもらえました! 絶対にこれならいけると思ったのです!」
俺がかわいいと言ったのが余程嬉しかったのか、満面の笑みを浮かべてシャーロットさんが喜ぶ。
どうやら彼女が意地になっていたのは俺がかわいいと言わなかったからみたいだ。
無邪気にはしゃぐ姿はとてもかわいい。
服装のせいもあってか、子供がはしゃいでいるようにしか見えない。
だがしかし――やっぱり、この子は俺の事をロリコンだと思っているんだな。
人の性癖はそうそう変わらないだろうが、そもそも俺はロリコンではないので信じてもらえないのが納得いかない。
だけど、ゴスロリ服を着た時にのみ《とてもかわいい》と言ったから、ロリコン疑惑が深まった節すらある。
「ではこれを購入で――」
「ちょっと待った!」
なんの疑いもなしにゴスロリ服を買おうとするシャーロットさんを俺は慌てて止める。
するとシャーロットさんは《何か問題でも?》と聞きたげな表情で俺の顔を見上げてくるのだが、どう考えても問題がありすぎだ。
似合ってるのは似合っている。
だけどこんな服を着て歩かれたら良くも悪くも注目の的だ。
むしろ注目をされたくないシャーロットさんにとっては悪い意味しかない。
なのにどうしてゴスロリ服を買おうとするんだ。
いくら外国人の彼女とはいえ、そんな判断ミスをするとは思えないんだが……。
「本当にそれを買うつもりなの?」
「だって青柳君、この服しかかわいいって言ってくれなかったんですもん……」
俺が《正気か?》という意味を込めて聞くと、シャーロットさんは頬を膨らませて拗ねてしまった。
他の服でかわいいと言わなかった事を余程根に持っているようだ。
「ご、ごめん。それは恥ずかしくて言えなかったっていうか……」
「つまり、この服はその恥ずかしさを超えてでもかわいいと言えるくらい、かわいかったという事ですね?」
それは曲解にもほどがある。
俺の思考が鈍ったのは別の理由だ。
「あのさ、シャーロットさんならどの服を着てもかわいいから、とにかくこれはやめよ、な?」
彼女が拗ねてしまっているので、俺は優しく諭すように言った。
相手は優しくて物分かりのいいシャーロットさんだ。
それだけで素直に聞いて納得をしてくれるのだった。
――いや、まぁ、正確には渋々といった感じだったが、一応考えを改めてくれてよかったと思う。
結局話し合った結果、シャーロットさんは二番目に着たボーイッシュに寄せた服を買った。
持ってない系統だったのと、こっちのほうが俺の反応がよかったからだそうだ。
そして俺たちは何事もなく服屋を出たのだが――俺は、少しだけ彼女について思い直していた。
本当に仲良くなればなるほど彼女の知らない一面を見ている気がする。
一つわかったのは、彼女は大人っぽく装っているだけで実は子供っぽくて甘えん坊だという事。
大人っぽくしているのは幼いエマちゃんの面倒を見ているからかもしれない。
どちらも凄く魅力的だし、初めて会った時は大人っぽいシャーロットさんの事を理想の人だと思った。
でも今は――素の、子供っぽくて甘えん坊な彼女のほうが好きだ。
だから俺はこう思った。
俺の前だけでは、彼女が遠慮なく甘えてくれるようにしたい――と。
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