第68話「リア充爆発しろ」
――一度経験すれば、誰だって学習をするだろう。
そして成功した例があれば、それに縋りやすくなる。
……うん、頭では理解している。
理解しているのだが――これは、どうなのだろうか……。
俺は鼓動が高鳴る事を感じながら、自分の右手側へと視線を落とす。
するとそこには、俺の右手に抱き着いて顔を埋めるシャーロットさんがいた。
部屋を出るとすぐに彼女は抱きついてきたのだ。
どうして彼女が抱きついてきたのかはわかっている。
一度俺と遊びに行った時に周りから注目されたせいで、注目される事に怯えているのだ。
普段の彼女ならまだあのような注目のされ方はしないだろう。
だけど遊びに行く時の彼女は普段よりもお洒落をしているせいか、一段と――いや、二段とかわいいのだ。
今日だって目を離せないくらいにかわいい。
だから周りの人たちが彼女に注目してしまう理由もわかるし、多分俺も外野なら同じような事をしたと思う。
そして、十中八九今日もシャーロットさんは注目の的になるはずだ。
それを恐れた彼女は俺の腕に押しつける事で顔を隠そうとしている。
以前はそれで何事もなく終わったから、同じ方法を取ったのだろう。
まぁ一応本人にもなんで抱きついているのか確認をしてみた。
その時は――
「だめ、ですか……?」
――と上目遣いで聞き返されてしまったのだが、おそらく間違いないと思っていい。
一緒にいる俺としてはかわいい彼女を見られて胸が高鳴るのだが、彼女自身がこんなふうに自衛策をとらないと楽しめないのならそれもどうにかしたいと思った。
「――それで、今日は何処に行くのでしょうか?」
駅前まで行くと、券売機の前で上目遣いのシャーロットさんが行き先を聞いてきた。
頬が赤いのは抱きついてる事を恥ずかしがっているのかもしれない。
「今日は倉敷に行ってみようと思うんだ。また遠くになってしまうけど、そこでショッピングでもどうかなって」
本当なら岡山駅の近くに日本全国で有名な大型ショッピングモールがあるのだが、さすがにそこは避けておきたい。
なんせそこは、その大型ショッピングモールの中でも西日本で一番大きいところなのだ。
そのせいで平日の放課後でも学生が多く集まるようなところなので、休日にシャーロットさんとそんなところに行ってしまえばどうなるかは火を見るよりも明らかだろう。
行けば、百パーセント知り合いに出くわす事になる。
普通なら絶対という事はないのだろうけど、シャーロットさんと一緒にいる時は幸福感に満たされているせいかまるで均等を取るかのように不幸が俺を襲うからな。
「ショッピング、ですか……?」
女の子はショッピングが大好きだからてっきり喜んでもらえるかと思ったのだが、シャーロットさんはなぜか戸惑った表情を浮かべた。
もしかして女の子がショッピングを楽しむのは家族や女友達同士であって、男友達の場合は違うのだろうか?
「えっと、別のところのほうがよかった?」
「あっ、いえ……私はショッピングも好きなのですが、青柳君はそれでよろしいのでしょうか? 男の子はあまりショッピングには興味がないかと……」
あぁ、なるほど。
彼女は俺の心配をしてくれているのだ。
確かにショッピングに時間を長時間割くことはほとんどない。
必要なものは予めピックアップしておくし、無駄遣いはなるべくしないようにしているからだ。
だけど、シャーロットさんとなら何処に行っても楽しい。
楽しんでくれている彼女の笑顔さえ見られれば、何処だろうとかまわないのだ。
「うん、俺は大丈夫だよ」
「そう、ですか……。もしかして私がこんな薄着で来てしまったから、温かい室内に変えられたのでしょうか……?」
相変わらず鋭い子だ。
確かに俺は彼女の服装を見て室内へと切り替えた。
だけど、室内でも遊べる場所は当然多くある。
そしてゲームセンターやボウリング場などの遊べる場所の中から、ショッピングデートを選んだのだ。
俺が勝手にショッピングに決めたのだから彼女が心配する事なんて何もない。
それなのに俺の事を心配してくれるなんて、シャーロットさんは優しすぎるよな。
「気にしなくていいよ、俺がシャーロットさんと行きたくて選んだんだから。それよりも、シャーロットさんは本当に大丈夫? 別のところに行きたかったら遠慮なく言っていいよ」
「いえ、私は青柳君となら何処でも嬉しいので……。ですから、遊びに行くところは青柳君にお任せさせて頂いたのです。………………それに、これは青柳君が好む服装などを知るチャンスですからね……」
どうしよう、とても嬉しい事を言われてしまった。
最後はちょっと声が小さすぎて聞き取れなかったが、俺となら何処でもいいなんて嬉しすぎる。
男に気を持たせようとする女の子がよく使いそうな言葉ではあるけど、シャーロットさんはそんな事をする子ではない。
だから、本音だと思っていいだろう。
というかこれ――本当に、気を持ってもらえているんじゃないか?
これで俺の勘違いだったら今後人間不信になりそうだ。
「それじゃあ行こうか」
「はい……!」
俺が電子カードにお金をチャージした後シャーロットさんに声を掛けると、嬉しそうに切符を買ったシャーロットさんが素敵な笑みを浮かべて頷いてくれた。
彼女も電子カードにすればいいのにとは思うのだが、日本で切符を買うという事が楽しいのだろう。
無粋な事を言うのはやめておいたほうがいい。
嬉しそうな笑みを浮かべるシャーロットさんを横目に、俺は改札口をくぐった。
「「「「「リア充爆発しろ……!」」」」」
――そんな言葉を周りから浴びせられながら……。
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