第64話「ロリコンじゃない証明」

『うぅん、いいよ。二人は仲良しだから』


 このメッセージは、俺がエマちゃんを寝かせつけている時に東雲さんから届いたものだ。

 学校が終わってからチャットアプリで東雲さんに確認をとったところ、やはり俺と彰が紙を入れ換えた事に気付いていたらしい。

 どうやら、彰がコッソリと入れ換えてるところを目撃してしまったようだ。


 本人は気にしていないそぶりを見せているが、今日のやりとりはずっと顔文字がないんだよな……。

 何より、この返事も遅かったし。


『うん、ありがとう』


 ただ、過ぎた事を気にしてもどうにもならないため、俺は素直にお礼を言った。

 これがもし見ていたのが他の生徒だったとしたら、すぐさま美優先生に言われていたところだろう。

 優しい彼女だったからこそ、言わずにおいてくれたんだ。


 ――あれ?


 エマちゃんの寝顔を眺めるのはやめてシャーロットさんの元に戻ろうとすると、再びスマホにメッセージの通知がきた。

 もうやりとりは終わりだと思っていたのに、おやすみのメッセージでも送ってきたのだろうか?


 そう思って中身を確認すると――。


『本当は、私も青柳君がよかった(´・ω・`)』


 凄く罪悪感にさいなまれるものが書かれていた。


 本当なら、俺と東雲さんがペアを組む事になっていたのは東雲さんもわかっている。

 なんせ、俺と紙を入れ換えた彰が東雲さんのペアになったのだからな。

 まぁ彼女が俺と組みたかったって言っているのは、他の生徒に比べて気心が知れた間柄だからだろう。

 決して恋愛的な意味ではない。


「――昨日から、ずっと東雲さんとやりとりされているんですね?」

「――っ!? シャ、シャーロットさん、いつの間に後ろにいたんだ……?」


 東雲さんに返信しようとしていると、俺に読ませる漫画の準備をしていたはずのシャーロットさんが後ろに立っていた。

 見れば頬が膨らんでいるし、どう見ても拗ねている。

 なんだかここ最近シャーロットさんの拗ねる姿ばかり見ている気がするぞ。


「あっ……えっと、今日の事でちょっと謝っていたんだよ」

「今日の事ですか……? もしかして、二人三脚のペアくじの事でしょうか? 青柳君と西園寺君は紙を交換されていましたし、本来なら青柳君のペアは東雲さんでしたから……」


 どうして今日の事って言っただけでそんな答えに辿り着けるんだ……?

 普通にありえないだろ。

 もしかしてシャーロットさんも、彰が俺のくじを入れ換えるところを見ていたのか?

 他に考えられるとしたら、予め俺と彰の番号を知っていて、その番号が入れ替わっていたから気付いたって事だけど――発表までは彼女が知る機会はなかったしな……。


 しかも入れ換えた事がバレているという事は、俺がシャーロットさんとペアを組みたくて交換したと思われているんじゃないだろうか?

 つまり、俺が彼女を好きだという事がバレているのでは……。


「…………」

「シャ、シャーロットさん……?」


 俺が頭の中で思考を巡らせていると、シャーロットさんがピトッとくっついてきた。

 何も言わず、だけど目を潤ませながら上目遣いで俺の顔を見つめてきている。

 その行為は凄くかわいくて頭が蕩けそうになるのだが、多分何か言いたい事があるのだろう。


「えっと、どうかした……?」

「青柳君は……私と東雲さん……本当は、どちらとペアを組みたかったのですか……? やはり、小さくて童顔な東雲さんですか……?」


 弱々しく彼女の口から出てきた言葉は、なんとも意外なものだった。


 ……ちょっと待ってくれ。

 なんでこんな質問をされているんだ?

 こんな事を気にするなんて、どう考えても俺に好意を持ってくれているって事じゃないのか?


 後、『やはり・・・、小さくて童顔な東雲さん』のほうがよかったって聞いてきたのは何?

 前髪で目が隠れている東雲さんの事を童顔って決めつけているのもそうだけど、完全に俺の事を幼い子好きだと勘違いしていないか?


「シャ、シャーロットさん。一つ勘違いしているようだけど、別に俺はロリコンじゃないからな?」

「でも、エマの事大好きじゃないですか」

「それはあの子が甘えてきてかわいいからだし、そもそも性的な意味では見てないからロリコンにならないからね?」

「むぅ……」


 なぜ、更に頬を膨らます?

 まるで信じていないじゃないか。


「なんで信じてくれないんだ?」

「ご自身のお胸に聞いてみてください」


 俺がそう思わせるそぶりを見せているという事か?

 でも、思い当たる事なんてないしな……。


 一番証明になるのは、ここでシャーロットさんに告白をする事だ。

 見た目が全然ロリじゃない彼女の事が好きだと伝えれば、ロリコンという誤解はすぐにでも解けるだろう。


 ただそれは、自爆覚悟の行動となる。

 万が一振られでもしたらその時点で俺たちの関係は終わる。

 何より、告白をするならいい雰囲気の中でしたい。

 少なくとも、誤解を解くために感情でするものではないだろう。


「――次の土曜日、二人で遊びに行くよね? その時に俺がロリコンじゃないって事を証明する。だから今は信じてくれないか?」


 考えた末、俺は真剣な表情でシャーロットさんに伝えた。

 先延ばしのように思うかもしれないが、きちんと土曜日に決着はつける。

 むしろ、これは今取れる最善の策といえるだろう。


「えっ……それって……」


 頭のいい彼女は、今度の土曜日に行われるデートの際にロリコンの誤解を解くという事で、俺が何をしようとしているのか理解したのかもしれない。

 急に顔を真っ赤に染めながら俯いてしまっている。


 そして、なぜかまたギュっと俺の腕に抱き付いてきた。


 腕に抱きつかれた俺は、彼女のかわいさと照れ臭さにやられてもう何も話せなくなるのだった。

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