第53話「ボッチの二人」
――なぜ、こうなった……?
お洒落な喫茶店に来ていた俺は、予想外の事態に額に手を当てて天を仰いでいた。
というのも――今現在俺が座っている席の右には、シャーロットさん。
左には長い前髪で目が隠れている女の子。
……女性らしいある一部分の自己主張が激しいのだが、今はそれは置いておこう。
そして、目の前に座るのも女子たちなのだ。
なんだ?
俺は知らない間にハーレムでも築こうとしていたのか?
一つのテーブルに女子五人、男子一人という状況に俺は今すぐ帰りたい気分だった。
何より、シャーロットさんと隣同士というのがまずい。
さすがに隣にいて話さないなんて無理があるし、とはいえほどほどに話そうにも、時間が経つと二人とも家で会話をしているように話し始めてしまうと思う。
クラスメイトたちがシャーロットさんと同じテーブルに誰が座るかで揉めるとわかっていたから、席自体は完全なくじ引きで決めたのだが……いくらなんでも、これは酷すぎるだろ……。
他の奴からすれば凄く幸運に見えるかもしれないが、当の本人にとってはただの不幸だ。
女子の中に男子一人だと正直居心地が悪すぎる。
後、俺を見る男子の視線がまじできつい。
嫉妬全開だし、思いっ切り睨んできている。
他のテーブルに着いている女子たちも苦笑いをして俺の顔を見ていた。
もう本当にどうしてくれようか、この状況……。
唯一救いなのは、隣に座るシャーロットさんが凄く嬉しそうにしてくれている事だ。
多分まだ完全には女子たちと打ち解けていないのだろう。
家ではよく話す仲間がいるからか、ニコニコ笑顔で俺の顔を見つめてきている。
ただ、少し距離が近すぎる気がするが。
「ねぇ、青柳君。誰か他の女の子に席変わってもらう? 男子一人だと居づらいよね?」
どうしようか困っていると、目の前に座る女子が救いの手を伸ばしてくれた。
俺には願ってもない提案だ。
よし、この流れに乗って――。
「ま、待ってください……! 平等にくじ引きで決めたのですから、あまりそういうのはやめたほうがいいかと……! 一人がそうしてしまうと、みんな各々に席を交換してお店の方にもご迷惑をお掛けすると思うのです……!」
提案をしてくれた女子の話に乗ろうとすると、俺が口を開くよりも前にシャーロットさんがはねのけてしまった。
予想外の反応を示すシャーロットさんに対して同じテーブルに座る女子たちは驚いてしまう。
だけど、今やクラスの人気者の言葉だからか、何かを納得したようにみんな頷き始めた。
「うんうん、そうだね。シャーロットさんの言う通りだよ。席交代を認めたら絶対に男子たちがシャーロットさんの横にこようと騒ぎだすもん。ごめんね、青柳君。男子一人だからって気にせず会話に入ってくれたらいいから、我慢してくれる?」
「いや、うん……そう、だね……。わかった……」
望みを絶たれた俺はもう頷く事しか出来なかった。
確かに席交換が有効だと分かれば、男子たちがシャーロットさんの隣にこようと騒ぎ出すのは目に見えている。
ましてや他の女子たちはともかく、俺の左側に座る子はとても気が弱い子だ。
まともに他の生徒と話しているところを見た事がないし、話す事にも自信がないのか声量がめちゃくちゃ小さい。
そして、いつもおどおどとしている。
きっと男子に迫まられれば二つ返事で席を譲ってしまうだろう。
せっかくのシャーロットさんの歓迎会なのに、馬鹿騒ぎで潰す事はしたくない。
だから、我慢するしかないのだ。
「――ごめんなさい……」
俺が苦笑いを浮かべていると、シャーロットさんが申し訳なさそうに小さな声で謝ってきた。
彼女も嫌がらせのつもりで俺をここに留めたわけではない。
きっと下手な騒ぎを起こさせないためにリスクの芽を摘んだだけだろう。
何も彼女が謝る事はない。
「いや、いいよ。シャーロットさんの言ってる事は正しいから」
「いえ、違うのです……。私の、我が儘ですから……」
「我が儘……? それって――」
「――ご注文はどうなさいますか?」
我が儘と発言した彼女に真意を尋ねようとすると、ウェイトレスのお姉さんが注文を取りに来てしまった。
どうやら他の席の生徒が呼んで注文をしてしまい、その流れで俺たちのところにも注文を取りに来たようだ。
待たせるのも悪いと思い、俺たちはメニューから各自好きなものを注文する。
一つ有り難いのは、このお店は喫茶店なのにもかかわらず飲み放題(お酒なし)がある事だ。
聞いた話だと、学生もお客として狙っていきたくて飲み放題を始めたらしい。
――タイミングを逃した俺は、その後もシャーロットさんに聞く事が出来ないのだった。
◆
シャーロットさんの歓迎会は滞りなく進んで――というよりも、初めだけシャーロットさんが挨拶をして、それ以降は俺たちのテーブル以外はテストの打ち上げみたいになっていた。
さすがに、食事中に席を立って歩き回るようなマナーの悪い生徒はいないようだ。
みんなシャーロットさんの元に来るのは諦めて自分たちだけで楽しんでくれている。
一つ問題があるとすれば――俺、だよな……。
やはり女子たちの会話に混ざる事が出来ずに俺は浮いていた。
いや、正確には
シャーロットさんたちの会話に混ざれない俺は、両手の人差し指を合わせてモジモジとしている左の女子を見てみる。
名前は確か、
彼女は女子たちの会話に混ざりたいのか、口を開いては閉じてを繰り返している。
一応、シャーロットさんは俺やこの子にも話を振ってくれているんだが……俺は、シャーロットさんから話し掛けられた言葉に対しては短く切るようにしていた。
あまり長く話をするとボロが出てしまうからだ。
そして東雲さんは、話し掛けられるとテンパってしまい傍から見ているとかわいそうに思えてくる。
だからシャーロットさんも気を遣ってあまり話を振らない方向に切り替えたようだ。
結果、立派にボッチの二人が完成したというわけだ。
「……飲みもの、頼む?」
東雲さんの前に置かれているコップが空になっている事に気が付いた俺は、驚かせないようにソッとメニューを差し出す。
「ぁっ…………んっと、これ……」
急に話し掛けられたからか、東雲さんは戸惑ったように俺の顔を見上げたが、おずおずと自分が頼みたい飲みものを指さした。
彼女が発した声に俺は少し驚いてしまう。
女の子にしても異常に高い声。
確か、アニメ声というのだったかな?
アニメは見ないようにしているが、とてもかわいい声だと思った。
「みんなはどうする?」
俺は東雲さんに頷いた後、同じテーブルの他の子にも聞いてみる。
そして注文をまとめて、店員さんに注文をするのだった。
――なぜか、同じテーブルの女子たちみんなに見つめられながら……。
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