第42話「微笑ましい姉妹」
『あ~ん』
何事もなく一日が過ぎた夜――俺の膝に座るエマちゃんが、小さな口を大きく開けて俺の顔を見つめてくる。
俺はエマちゃんのかわいさに癒されながらも、スプーンですくったプリンを彼女の口に入れた。
するとエマちゃんはパクッと食い付き、はむはむと食べ始める。
そしてプリンをゴクンッと呑み込むと、満足そうに頬を緩ませた。
うん、エマちゃんは本当にかわいい子だ。
ずっとおやつを食べさせてこのかわいい笑顔を眺めていたい。
俺はエマちゃんの笑顔を見つめながら優しく頭を撫でた。
最近この
永遠にこの時間が続けばいいのにな。
「――エマばかりずるいです……」
エマちゃんに食べさせたり、頭を撫でるという動作を繰り返していると、向かい側の席に座っていたシャーロットさんが何かを呟いた。
見ればなぜか頬を膨らませている。
そういえば、学校に着いた後はすれ違う度に頬を膨らませていたような気がするな。
俺、知らない間に何かしただろうか……?
「えっと、どうかした……?」
「えっ? あっ――」
おそるおそる声を掛けてみると、シャーロットさんはハッとした表情を浮かべた。
そのまま困ったように周りを見回し始めたと思ったら、目的のものが見つからなかったのかソーっと俺の顔色を窺ってくる。
「あの、大丈夫……?」
「だ、大丈夫です! その……少し考え事をしていただけですので!」
「何か困り事があるなら相談に乗るけど?」
「い、いえいえ! 青柳君に相談に乗って頂くほどのものではないですので!」
必死に否定するシャーロットさん。
見るからに何かありそうだが、そこまで拒絶されると踏み込む事も出来ない。
『んっ……』
どうしようか悩んでいると、腕の中にいるエマちゃんが身じろぎをした。
少しだけ抱き締めている力を緩めてあげると、エマちゃんは俺の手からスプーンをとり、皿の上に置いているプリンをすくう。
そして――
『はい、ロッティー』
――シャーロットさんにスプーンごとプリンを差し出した。
俺が先程してあげた、あーんをシャーロットさんにしようとしているみたいだ。
俺とシャーロットさんが不思議そうに首を傾げると、エマちゃんはニコッと笑って口を開く。
『ロッティーもたべたいんだよね? はい、あ~ん』
どうやらエマちゃんは、シャーロットさんがプリンをほしがっていると思ったみたいだ。
多分シャーロットさんはプリンをほしがったんじゃないと思うけど、妹の厚意を無下に出来るはずもなく、シャーロットさんは行為を受け入れた。
食べる際に恥ずかしそうに俺の顔をチラ見していたのが、凄くかわいい。
『おいしい?』
食べてもらえたエマちゃんは、嬉しそうにシャーロットさんに感想を求める。
『うん、おいしいよ。ありがと、エマ』
『えへへ』
シャーロットさんがお礼を言うと、エマちゃんは更に嬉しそうに笑った。
ベネット姉妹の微笑ましいやりとりを見ていると心が綺麗になりそうだ。
もう俺は、シャーロットさんが何を誤魔化したのかどうでもよくなるのだった。
◆
『――ねぇねぇおにいちゃん』
二人と一緒にテレビを見ていると、腕の中にいるエマちゃんが俺の顔を見上げてきた。
『どうしたの?』
『あのね、あしたがっこうおやすみだよね? エマね、おにいちゃんとあそびにいきたいの』
明日、か……。
確かにエマちゃんの言うとおり明日は土曜日だから学校は休みだ。
しかし、亜紀との約束があるんだよな……。
『だめだよ、エマ。青柳君は明日、女の子とのデートが入ってるんだもん』
俺が断るよりも先に、シャーロットさんが否定をしてしまった。
頬を膨らませているのが気になったが、それ以上に気になる事がある。
その事を指摘するために俺は慌てて口を開いた。
『いや、シャーロットさん? 確かに予定は入ってるけど、デートではないよ?』
さすがにその誤解は見過ごせない。
他の女の子とデートしようとしていると思われるなんて、悪い事はあってもいい事などないだろう。
『……お遊びに行かれるお相手は、この前お会いした花澤さんですよね?』
『うん、そうだけど……』
『二人きりでお遊びに行かれるのですよね?』
『まぁ、そうだね。他に誘ってはいないから』
『ちなみに、どちらに行かれる予定なのでしょうか?』
『基本は亜紀の行きたいところに行くからまだ決まってないけど、大体は動物園か水族館か映画館に行ってるかな』
『………………どう考えてもデートじゃないですか……。しかも何度も行かれてるなんて……』
シャーロットさんの質問に答えていると、遊び場について答えたところでシャーロットさんはガックリとしてしまった。
『えっと、何か誤解されているようだけど、本当にデートじゃないからね? ただ遊びに行くだけだよ?』
『……それならば、私とも遊んでくださいますか?』
『えっ?』
『明後日でいいので、私とも遊んでください。もちろん、エマもいますけど……』
『あぁ、なるほど』
シャーロットさんはエマちゃんのために、俺と遊ぶ約束をしようとしているんだな。
明日は亜紀との約束があるから無理なのはわかっているから、明後日でエマちゃんに納得させるつもりなのだろう。
………………一瞬期待してしまったのが恥ずかしい。
まぁ口には出していないから、勘違いした事はシャーロットさんに知られていないだろう。
それよりも、誘いの返事をどうするかを考えなければ――。
テストは月曜日から始まる。
いつも通りの成績を維持するなら、土曜日が潰れている以上日曜日は勉強にあてたいのだが……。
俺はチラッと腕の中にいるエマちゃんを見る。
英語で会話をしていたのだが、俺たちの会話がわからなかったのかエマちゃんはキョトンッとした表情で俺の顔を見上げていた。
断ってしまうと、多分この子は泣いてしまうんだよな……。
視線を移せば、誘ってきたシャーロットさんも不安そうな表情で俺の顔を見つめている。
その表情は、断られる事を恐れているかのような顔だ。
まぁ俺が無理をすればいいだけか。
それに、本音を言えば俺もシャーロットさんと遊びたいしな。
『いいよ、日曜日にどこか遊びに行こうか』
『ほ、本当ですか!?』
『うん』
シャーロットさんの聞き直しに頷くと、シャーロットさんの表情がパァッと輝いた。
下を向いて『やった、やりました!』と小さくガッツポーズまでして喜んでいるのは大袈裟だなと思ったが、喜んでもらえて凄く嬉しい。
妹のためにここまで喜ぶなんて、本当にシャーロットさんは妹思いだよな。
――今もなお喜んでくれているシャーロットさんを眺めながら、俺は仲良しな姉妹を見て微笑ましい気持ちになるのだった。
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