第40話「不測な事態」
「青柳君、あちらの道を通りませんか……?」
「えっ、でも……あっちは遠回りになるけど……?」
シャーロットさんが指差した方向は人通りが少なく、そして学校に行くには遠回りになる道だった。
結局エマちゃんを引き剥がす事にはそれほど時間を使わなかったが、それでもいつもよりは遅い時間で学校に向かっている。
このまま遠回りをしてしまえばギリギリの時間で学校に着く事になりそうだ。
「それはわかっているのですが……」
シャーロットさんは俺から目を逸らしながら、相変わらずモジモジとしている。
何か別の道を行きたい理由があるのだろうか?
俺としては彼女と一緒にいられる時間が増えるため素直に嬉しい。
特にこの道は学校近くまで人通りが少ない道になる。
ましてや同じ学校の生徒が通る可能性はほぼ皆無だ。
なんせ、少し険しい道なのだからな。
普通に考えるなら学校前に疲れたくはないし、時間ギリギリに行くなんてよくない。
だけど、シャーロットさんと一緒にいられるというのなら当然――
「うん、それじゃああっちから行こうか。たまには別の景色を楽しみにながら行くのもいいと思うし」
――俺は、笑顔で受け入れた。
適当に理由をつけたのは、シャーロットさんと一緒にいられる時間が伸びるため同意した、という事を知られたくなかったからだ。
そんな理由がバレてしまえば、シャーロットさんの事が気になっていると自分から明言するようなものだ。
絶対にそれだけは避けなければならない。
「あ、ありがとうございます! その……ごめんなさい、今日はわがままばかり言ってしまって……」
「いや、別にいいよ。遠慮なく言ってもらえたほうが仲良くなれてると思うしさ」
嬉しそうな笑みを浮かべた後申し訳なさそうにシャーロットさんが謝ってきたため、俺は思っている事を伝えた。
実際、初めて会った時に比べると大分仲良くなれていると思う。
まだ怖がられている気もするが、シャーロットさんが自分でわがままだと認識している事を俺に言ってくれるのは、わがままを言っても大丈夫な相手だと思ってくれているからだ。
彼女が他人を見下す事はないと思う。
だから、わがままを言っても大丈夫なくらいの仲だと認識してくれているのではないだろうか?
「――どうしましょう……このままだと……凄く甘えてしまいそうです……」
俺の言葉を聞いたシャーロットさんは頬に手を当てた状態で俯いており、何かブツブツと言っていた。
この子は独り言を言う癖があるのだろうか?
まぁシャーロットさんの場合は独り言を言ってても絵になるため、それほど気にはならないのだが。
ただ、今だけは少しまずい。
「ごめん、あっちの道から行くんならそろそろ行かないと遅刻するんだけど……」
「あっ――ご、ごめんなさい! そ、それでは行きましょうか」
我に返ったシャーロットさんは慌てて顔をあげて笑みを浮かべた。
そして二人で一緒に移動するのだが――やっぱり、シャーロットさんは俺の服の袖を掴んでくるのだった。
――が、また一つ予想外の事があった。
「はぁ……はぁ……ご、ごめんなさい……青柳君……」
学校を目指すなか、隣を歩くシャーロットさんが苦しそうな声で謝ってきた。
息も荒くなっており、汗を垂れ流す顔はとても辛そうだ。
シャーロットさんはもう一人で歩く事も出来ないようで、俺の腕に抱きついてきながら歩いていた。
どうしてシャーロットさんがこうなっているのか――それは、遠回りをした道と、シャーロットさんの体力に問題があった。
足場が悪く少し険しい道なのだが、シャーロットさんはことごとく転びそうになるのだ。
少し気を付ければ問題ないはずなのだけど、多分シャーロットさんは体幹が弱いのだろう。
だからすぐに体勢を崩してしまう。
そして無理矢理体勢を戻そうと頑張るため、体力の消費が激しいのだ。
挙げ句の果てに、
俺に迷惑をかけないよう頑張って上っていたシャーロットさんは、坂を上っている最中で力尽きたのだ。
なんでも出来るイメージがあったのだが、この体幹の弱さと体力のなさを見るにシャーロットさんは運動が苦手なのかもしれない。
これならあらかじめ道が少し険しい事を伝えておけばよかった。
「その、大丈夫? あんまりしんどいようなら一旦休もうか?」
「で、ですが……そうしてしまいますと、遅刻してしまいますので……。青柳君、先に行ってください……。私は後から行きますので……」
「そんな事出来るわけないだろ? もし何かあったらどうするんだ」
今の状態のシャーロットさんを置いていくと、脱水症状や日射病などで命の危険になりかねない。
今はもう九月だとはいってもここ数年の気温は夏と変わらないのだしな。
「うぅ……本当にごめんなさい……」
シャーロットさんは泣きそうになりながら再度謝ってきた。
彼女は優しいから俺に迷惑をかけているこの状況が辛いのだろう。
まぁ本音を言うと、まさか登校するだけでこのような事態になるなんて一ミリも考えてなかった。
しかしなってしまったものは仕方ないし、この道で登校する事を俺も同意してしまっている。
だから彼女に責任はないのだ。
「気にしなくていいからさ、俺にもう少し体重を預けてくれるかな? そうしたらシャーロットさんは楽になるだろうから、歩く速度を上げられる。後は、何か楽しい話をしよう。――そうだ、シャーロットさんが好きな漫画の話を聞かせてよ」
シャーロットさんのような華奢な女性なら例え全体重を預けられようと問題なく歩けるため、俺は彼女が気にしないよう彼女の好きな話題で話しをする事にするのだった。
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