第39話「積極的な美少女留学生」

「――えっ、一緒に学校へ行きたい?」


 別々に登校しようとした矢先、シャーロットさんがお願いがあるという事で俺を呼び止めてきた。

 その内容が、今俺が確認した事である。


「はい……だめ、でしょうか……?」


 頬を赤く染めながら、上目遣いにシャーロットさんが見つめてくる。

 だがどうやら俺と目が合わないように意識しているみたいで、視線が俺の首元へと向いていた。


 えっと、なんだこの状況は?

 どうしてシャーロットさんは頬を赤く染めているのだろう?

 そして、モジモジとしているのはなんでだ?


 俺はシャーロットさんの様子を観察しながら、突然の展開に戸惑っていた。

 今のシャーロットさんは普段以上にかわいくて、見つめているとなんだか変な気分になりそうだ。


 何より、彼女からの思わぬ誘いに俺の鼓動は高鳴っていた。

 正直このまま彼女の申し出を受け入れたいが――そういうわけにもいかないわけがある。


「ごめん、誰かに見られるとめんどくさい事になるから……」


 シャーロットさんは可憐な容姿のせいでとても周りの目を引いてしまう。

 そんな彼女と一緒に登校するなど、周りに俺たちの関係をアピールするようなものだ。

 少なくとも、根も葉もない噂が飛び交う事になるだろう。


 結局それはシャーロットさんを困らせる事になる。

 だから俺は断った。


「通学生が少ないところまででいいのです……。それでも、だめでしょうか……?」

「でも……」


 君の場合、一人でもいたらアウトなんだけど……。


 俺はその言葉を言おうとしたのだが、否定語から俺が入った事によってシャーロットさんがシュンとした事に気が付いてしまい、言葉を呑み込んだ。


 どうして彼女が誘ってくれているのかはわからない。

 しかし残念がってくれている事から、本当に俺と一緒に登校したがっていたという事はわかる。


 俺が一緒に登校する事を断っている理由は、シャーロットさんが困らないようにしたいからだ。

 だけどそれは、彼女の思いをないがしろにしてまで守るべきなのだろうか?


 そもそも彼女にきちんと説明をせずに、俺は別の理由を付けて誤魔化している。

 それは優しい彼女に気を遣わせないためなのだが、そのせいで彼女が本当はどう考えているのかを聞けていない。


 一つわかるのは、俺と一緒に歩いてるところを見られてもいいから、一緒に登校したいとシャーロットさんは思ってくれているという事だ。

 男女二人が一緒に歩いていれば周りからどう思われるか――聡明な彼女が理解していないとは思えないからな。


 ………………うん、今色々と言い訳・・・を思い浮かべてしまうくらい、俺もシャーロットさんと一緒に登校したいと思っているんだよな……。


 彼女と一緒にいると凄く緊張してしまう。

 だけど、それ以上に言葉にし難い幸福感がある。


 要は、一緒にいられるだけで幸せなのだ。


 シャーロットさんの言うとおり、他の学生があまり通らないところまでは一緒に行ってもいいのかもしれない。

 もし何かあればたまたま鉢合わせたなど、適当に言い訳をしよう。

 そうなればシャーロットさんも臨機応変に対応してくれるだろうしな。


 それにこれは、俺が怖いという誤解を解くチャンスかもしれない。

 チャンスをみすみす見逃す事もない、よな?


「ごめん、それじゃあ人通りが多くなるところまでは一緒に行こうか」


 どうするか悩んだ結果、シャーロットさんの誘いに乗る事にした俺は笑顔で答えた。

 するとシャーロットさんは、ポーっとした表情で俺の顔を見つめてきたのたが、少ししてハッとした表情になり、慌てて顔を左右に振った。


 どうしたのだろうと思い見つめていると、シャーロットさんは右手を自分の髪に回して髪の毛を弄りながらゆっくりと口を開いた。


「あ、ありがとうございます……」


 お礼を言ってきたシャーロットさんの表情は照れ笑いのような笑顔に見え、俺は顔を背けてしまった。

 頬を赤く染めながら嬉しそうに笑うシャーロットさんが魅力的すぎて、見つめていると顔が真っ赤になりそうだったのだ。


「そ、それじゃあ、行こっか……」


 このまま止まっていてもいたずらに時間がすぎるだけなので、俺は枯れる喉から声を絞り出した。

 ちょっとドモッた事は見逃してほしい。


「はい……!」


 シャーロットさんも嬉しそうに同意してくれたため、俺は学校に向けて歩きだそうとするのだが――予想外すぎる出来事が、俺の足を止めてしまった。


 そう、なぜかはわからないが、歩き始めた直後にシャーロットさんが俺の服の袖を掴んできたのだ。


「しゃしゃしゃ、シャーロットさん……?」

「あっ……えっと、その……だめ、でしたか……?」


 はたから見ればキモいくらい動揺した俺が声を掛けると、シャーロットさんは不安そうな表情を浮かべて上目遣いに見つめてきた。


「いや、いいです……」


 そんな表情をされて駄目だと言えるはずがない。

 当然俺は即答で頷いた。


「あっ――ありがとうございます……!」


 俺が了承すると、またもやシャーロットさんは凄く嬉しそうな表情でお礼を言ってきた。

 そして、「えへへ」とまるでエマちゃんのような笑い声を漏らし、なんだか幸せそうな笑みを浮かべている。


 俺はそんな彼女を横目に、混乱している頭でこう思った。


《外国人、友達との距離感が凄すぎるんだけど……》と。

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