第33話「次第に見え始める彼女の素顔」
『――やっぱり、シャーロットさんの手料理はおいしいね』
どうせならという事でシャーロットさんが俺の分の朝ご飯も作ってくれたため、俺は厚意に甘えてシャーロットさんお手製の朝ご飯を食べていた。
食卓に並ぶのは、白ご飯に定番のお味噌汁。
そしてほうれん草とベーコンの炒めものに、秋刀魚の
朝ご飯にしては豪華な気がするが、どれもおいしくて朝から得した気分だ。
『ふふ、お世辞を言われましても、もう何も出ませんよ?』
『いや、本当においしいよ。毎日食べていたいくらいだ』
『えっ、それって――』
心から思った事を言うと、なぜかシャーロットさんは俺から顔を背けてしまった。
いったいどうしたのだろう?
なんだか、耳が赤いような気がするけど――。
――クイクイ。
シャーロットさんを見つめていると、俺の膝の上に座っていたエマちゃんが服を引っ張ってきた。
『どうしたの?』
『おにいちゃんいると、ごはんいっぱい。まいにちおにいちゃんとたべたい』
『エ、エマ! 余計な事言ったらだめだよ!』
悪意のないエマちゃんの言葉に、シャーロットさんが敏感に反応した。
俺のほうに向き直したシャーロットさんの顔は、恥ずかしさからか真っ赤になっている。
エマちゃんの言葉とシャーロットさんの反応から察するに、どうやら俺がいるから手が込んだ朝ご飯を作ってくれたみたいだ。
どうしよう。
シャーロットさんは他人に料理を振る舞うから気合を入れてくれただけだろうが、俺のためだと思うとやっぱり嬉しい。
『ち、違いますからね? 普段手抜きをしているわけじゃないのですよ?』
『はは、そんなに慌てなくてもわかってるから大丈夫だよ』
『わ、笑ってます……! 本当は心の中でばかにしてるんですね……!』
『してないよ!?』
『むぅ……』
えぇ……。
なぜかシャーロットさんが拗ねてしまった。
本当に馬鹿にしてないんだけどな……。
でも、頬を膨らませて子供っぽいシャーロットさんは凄くかわいい。
こういう一面を見せてくれるようになったという事は、打ち解け始めていると思っていいのだろうか?
まだ出会って数日だというのに仲良くなれている気がして、俺は嬉しいと思った。
『――そういえばもうすぐテストなのですよね?』
食べ終わった食器を洗っていると、同じように隣で洗っていたシャーロットさんがテストの話題を持ち出してきた。
ちなみに今一緒に食器を洗っているのは、毎回彼女一人に洗ってもらうのは申し訳ないと思い、強引に俺が手伝っているからだ。
『そうだね。とはいっても、長期休み明けのテストだから試験範囲は一学期の範囲から出るし、半分くらいは夏休みの課題から出るだろうから、シャーロットさんは免除なんじゃないか?』
さすがに学校側も、留学してきたばかりのシャーロットさんにテストを受けろとは言わないだろう。
彼女がイギリスで何処まで勉強をしていたのかは知らないが、授業スピードや範囲が俺たちと全く一緒という事はありえないからな。
おそらく彼女がテストに参加するのは、中間テストだろう。
『そうですね、今回は免除して頂けました。あっ、そういえば花澤先生からお聞きしたのですが、青柳君は学校で一番勉強が出来るそうですね? 私も青柳君に負けないように頑張りませんと』
学校で一番?
確かに学年でならテスト結果のみを見れば一番だが、何をもって学校で一番と美優先生は言ったのだろうか……?
全国学力模試の結果で言ってるのかもしれないが、勝手に学校で一番とか言うのはやめてほしいな……。
まぁそれはまた今度美優先生に遠回しに言っておくとして、シャーロットさんは凄く勉強に自信がありそうな態度だな。
日本語も流暢でよく知っているし、普段の様子から見てまず勉強が出来るタイプで間違いないだろう。
もしかしたら、シャーロットさんは俺の目的にとって一番の邪魔者になるかもしれないな……。
まぁそうなっても、結局俺が頑張るしかないんだ。
たまにいる、他人を蹴落としてまで上に行こうとする奴にはなりたくない。
例え他人が落ちたところで自分が得られるものなんて何もないし、上に人が来る度に蹴落としていたんじゃあ
だから俺はそんな過ちを犯す気はない。
『俺もシャーロットさんに負けないよう頑張るよ。……テストが終わればすぐに体育祭が待っているし、少しの間忙しいだろうな……』
『た、体育祭、ですか……?』
ん?
どうしたのだろう?
なにげなしに体育祭の話題を出しただけなのだが、シャーロットさんが俺の顔を見たまま固まってしまった。
『えっと、どうかした?』
『い、いえ、なんでもないです! ……そっか、そういえば日本はイギリスと違って運動にも力を入れているんでしたね……。漫画でも定番ですし……』
シャーロットさんはなんでもないと言ったが、どう見ても何かありそうだ。
後半ブツブツと言った言葉は上手く聞き取れなかったが、ひょっとして運動が苦手なのか?
俺は気になって少しだけ踏み込もうとするのだが――
『――おにいちゃん、あそぼ?』
暇を持て余したエマちゃんが足にしがみついてきたため、聞くタイミングを逃してしまうのだった。
――ちなみにエマちゃんとは、学校に行くギリギリの時間まで一緒に遊ぶのだった。
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