第30話「美少女留学生は世話焼きだ」
彼女の相手は、彰みたいなみんなに人気がある男が相応しいと思う。
俺は運よく彼女と仲良くなれるきっかけは持てたが、彼女のような人気者とはつりあわない。
これが漫画とかならきっと何も努力しなくても彼女と結ばれるのだろう。
本当、漫画のキャラはずるいと思うよ。
俺はどうしたいのだろう……?
元々はシャーロットさんと関わるつもりはなかった。
だけど、運命の悪戯で関わるようになってしまうどころか、こうやって毎夜一緒にいる関係になってしまった。
このまま諦めるのは、少しだけ惜しいと思う。
彰に譲る――いや、遠慮するといったほうがいいか。
譲るなんて言葉は上から目線で偉そうだし、シャーロットさんの気持ちが含まれていない。
彰がシャーロットさんを狙っている以上、俺が彼女と親しくなるのはよくないはずだ。
親友の事を思うならここは遠慮するのが正しい。
俺がシャーロットさんにこの関係を隠してもらった理由には、彰に対する後ろめたさもあったのかもしれない。
シャーロットさんの事に関しては親友の事を考えずに、自分の想いを優先してしまった。
あの時の俺がシャーロットさんとお近づきになれた事に浮かれなければ、こんなややこしい事にもならなかったのにな……。
「――柳君……青柳君……青柳君!」
「――っ!?」
「どうかなさいましたか……? なんだか深刻そうな表情で考え事をされていたようですが……」
いつの間にか、俺は漫画の事など忘れて考え事に集中していたようだ。
そんな俺の事をシャーロットさんが不安そうな表情で見つめてきている。
急にボーッとしたりすれば、不安になって当然か。
「いや、ごめん。ちょっと考え事をしていただけだよ」
「…………」
慌てて言い繕ったが、シャーロットさんはまだ見つめてくる。
そして――ゆっくりと、俺の額に手を伸ばしてきた。
「――っ!?」
ひんやりとした柔らかくて気持ちのいい手が俺の額に触れた事により、すぐにこの状況を理解した俺は体が熱くなってきた。
「熱はない……うぅん、やっぱり少し熱い気がしますね……。というか、どんどん熱が上がっていってる気がします……。それにお顔も真っ赤ですし、少し遅い夏風邪を引いてしまわれたのでしょうか……?」
いや、うん。
それ風邪による熱じゃないから。
君に触れられて恥ずかしいから体が熱くなっているだけだから。
俺は心の中でそう思い浮かべるが、口はパクパクと動くだけで緊張から声が出てこなかった。
すると何を思ったのか、シャーロットさんは今度はおでこを当ててきた。
顔!
顔ちかっ!
何してんのこの子!?
「やっぱり熱がありますね……。残念ではありますが、これでお開きに致しましょう」
「あっ、う、うん……」
俺は戸惑いながらもなんとか声を絞り出す。
「青柳君、お布団って何処にしまわれていますか?」
「えっ……? そこの……押し入れだけど……」
頭がのぼせ上がっていて頭が回っていない俺は、シャーロットさんに聞かれるがままに答えてしまった。
すると、彼女は《失礼します》と呟いて押し入れを開けてしまう。
いったい何をしているんだと思っている間にはもう、シャーロットさんが押し入れから布団を引っ張り出して床に敷いてしまった。
「さ、青柳君。もう寝てください」
「え? え?」
「風邪は引き始めが肝心と言います。青柳君の場合はもう熱が出てしまっていますので、早く寝るべきなのです。大丈夫です、寝られるまで私はいますから」
ニッコリと聖女様のように可憐な笑顔で微笑むシャーロットさん。
うん、全然大丈夫じゃないから。
むしろ何処が大丈夫なのか聞きたいから。
「風邪が移ってしまうとさすがに困りますので、エマは引き取りますね。では、横になってください」
シャーロットさんは俺の腕の中からエマちゃんを抱き上げると、一旦クッションを枕にして床に寝転がせ、その後俺の体に触れてきた。
そのままゆっくりと布団にまで導く。
「いや、あの……」
「あっ……まだ熱が上がってますね……。青柳君、やはりすぐに横になってください」
移動する最中、再度俺の額に触れてきたシャーロットさんが心配した表情で言ってきた。
体温が上昇しているのは風邪ではなくこの状況のせいだと言いたいのだが、頭がグルグルと回っていて上手く言葉が出ない。
喉も緊張からか枯れてしまっているし。
「――それではおやすみなさい、青柳君」
結局シャーロットさんに抗えず、布団に寝かされてしまった。
シャーロットさんは《おやすみなさい》と優しい声で言うと、部屋の電気を消してしまう。
しかし、立ち去る気配はなかった。
本当に俺が寝るまでは傍にいるつもりのようだ。
熱があると分かる(勘違い)やいなや、シャーロットさんは一気にお姉さんみたいになってしまった。
いつもエマちゃんの面倒を見ているから世話焼きになっているのだろうか?
………………とりあえず、もうどうにでもなれ……。
もう色々とありすぎて頭が回っていない俺は、考える事に疲れて眠る事にした。
――意識が薄れていく中、《現実的ではないと漫画の事を否定しているが、この状況は漫画でも珍しいのではないか?》と疑問になる俺だった。
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