第25話「我慢の限界?」

 夕食を食べた後、片付けも終えた俺たちは帰る準備をしていた。

 とはいっても荷物があるのは俺くらいなもので、シャーロットさんは俺の準備が整うまで待っていてくれた感じだ。


 ん?

 エマちゃんはどうしたのかって?

 今は俺の腕の中でスヤスヤと寝ているよ?


 ご飯を食べてお腹が膨れたため、眠くなってしまったのだろう。

 食事を終えたエマちゃんはすぐに俺にもたれて寝始めてしまったのだ。

 だから今もなお、俺は抱っこを続けている。 


「それじゃあもう帰るな、亜紀」

「花澤さん、今日はありがとうございました。初対面なのにもかかわらず妹の我が儘を聞いてくださり、とても有難かったです。それでは失礼いたします」

「いえ、こちらこそありがとうございました。これからも先輩と仲良くしてあげてください」


 玄関まで移動した俺たちは互いにお別れの挨拶をする。

 シャーロットさんは相変わらず物腰が柔らかくて丁寧な感じだ。


 亜紀は、なんだろう?

 丁寧に挨拶をしているのだが、なぜ俺の事をお願いする?

 こいつは俺の母親にでもなっているつもりなのだろうか?


「なんでしょうか、先輩?」


 亜紀を見つめていると、亜紀が俺の事を見つめ返してきた。


「いや、なんでもない」

「そうですか。では、私から先輩に質問したい事があるのですが、よろしいでしょうか?」


 亜紀にしては珍しい前置きだ。

 シャーロットさんを待たせる事になるし、手短に済ませよう。


「あぁ、いいぞ」

「では――御二方の関係は、いったいなんなのでしょうか?」


 若干引きつった笑みを浮かべて、亜紀が予想外すぎる事を聞いてきた。

 

 ……油断した。

 会ったばかりの時には聞いてこなかったくせに、まさかもう解散というタイミングで聞いてくるだなんて予想出来るはずがない。


「少し前に説明したばかりだろ? 彼女は俺のクラスメイトだ」


 とりあえず事実のみで誤魔化す事にする。

 しかし、亜紀がそんな言葉で納得するはずもなく――。


「それにしては随分と仲がよろしいですよね? しかも妹さんにそんなにも懐かれているだなんて、ただのクラスメイトってだけではないと思いますが?」


 亜紀は一瞬俺の腕の中にいるエマちゃんに視線を向けた後、すぐにジーっと俺の顔を見つめてきた。


 いったいなんなんだ?

 もしかして先程までは我慢していただけで、ずっと聞きたかったのだろうか?


 普段はおとなしいくせにたまに凄みを見せる亜紀だが、なんだか今はその時の雰囲気に近い気がした。

 あまり心に余裕がなさそうに見えるし、やっぱり我慢の限界がきたというところか?

 多分俺に気を遣って聞くのを我慢していたんだろうが……。


「この子が迷子になっていたところを助けたのがきっかけで仲良くなっただけだよ。な、シャーロットさん?」

「そうですね。あの時の事は感謝をしてもしきれません」


 シャーロットさんに話を振ると、彼女は笑顔で同意してくれた。

 ちょっと大袈裟に感謝されすぎている気もするが……。


「そう、ですか……。ごめんなさい、変な事を聞いてしまって」


 俺たちの話を聞いて困った表情を浮かべた亜紀は、そのままペコリと頭を下げた。

 本当に、こういうところは素直だ。


「いいよ。何か気になる事があるならすぐに聞けばいい。俺も出来る限りは答えるから」

「先輩……」


 後輩を導くのは先輩の役目だと思って言ったのだが、亜紀は予想以上に嬉しそうな顔をした。

 

「………………青柳君は、彼女にとても優しいのですね……」


「ん? 何か言った?」

「いいえ、なんでもないですよ」


 隣にいるシャーロットさんが何か呟いた気がしたのだが、尋ねてみると彼女は首を横に振った。

 よくわからないが、気のせいだったのだろう。


 そう結論付けた俺は亜紀に別れを告げ、シャーロットさんと一緒に帰路につくのだった。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る