第23話「仲良くお買い物」

 俺とエマちゃん、そしてシャーロットさんに亜紀という少し奇妙な組み合わせで俺たちは店内を歩いていた。

 腕の中にいるエマちゃんは相変わらず俺に頬ずりをしてきてかわいいのだが、なんだかシャーロットさんと亜紀に挟まれて気まずい。

 亜紀は俺の事を物言いたげに見ているし、シャーロットさんは困ったような笑みを浮かべてこっちを見てきていた。

 二人から見つめられている俺はいったいどういう反応をしたらいいのだろうか。


『おにいちゃん。エマ、おにいちゃんとごはんたべたい』


 二人の視線に困っていると、エマちゃんがかわいい笑顔でおねだりをしてきた。

 エマちゃんに一緒に食べたいと言われたのは嬉しいが、俺は少し答えに困ってしまう。

 予定がないならまだしも今日は亜紀と一緒に食べる事になっている。


 そして、料理を作ってくれるのは亜紀だ。

 ドタキャンするわけにもいかないし、料理をするのは俺ではないため俺に決定権もない。

 だから答えるのに困ってしまった。


『だめだよ、エマ。青柳君には予定があるんだから』


 俺の様子から察したのか、シャーロットさんが慌ててエマちゃんを止めに入る。

 しかし、エマちゃんが反抗するよりも前に亜紀が声を出した。


『いいじゃないですか。私の家に来て頂けるのでしたら、彼女たちの分も料理を作ります』


 何を思ったのか、亜紀は英語でエマちゃんたちの分まで料理を作ると言い出した。

 まだ完璧ではないが、亜紀もある程度は英語で話す事が出来る。

 英語で話したのはきっと幼いエマちゃんに合わせてくれたのだろう。

 人見知りのはずなのに、まさか他人を家に呼ぼうとするとは思わなかった。

 いったいどういう心変わりだろうか?


『そんなわけにはいきませんよ。ご迷惑をお掛けしたくないのです』

『私は大丈夫ですよ? それに、妹さんのそのご様子では……』


 亜紀は俺の腕の中にいるエマちゃんに視線を向けた。

 俺とシャーロットさんも亜紀の視線につられ、そちらに視線を向けてみる。

 するとそこには――頬を膨らませながら俺の服にしがみついてる、エマちゃんがいた。


 俺が返事をしなかっただけでなく、シャーロットさんが反対してしまったから拗ねているのだろう。 

 服にしがみついているのは俺から離れないという意思表示だろうか?

 亜紀が言いたいのはエマちゃんが言う事を聞きそうにないという事だ。


『エマ、今日は私と二人でご飯を食べよ?』


 シャーロットさんは懸命にエマちゃんを説得しようとする。

 だがエマちゃんは何も言わず、目をウルウルとさせてシャーロットさんを見つめた。


 俺はこの時点で勝負あったな、と思ってしまう。

 案の定、エマちゃんの反則ともいえる瞳に見つめられたシャーロットさんはたじろいでしまった。


『ロッティー……』


 更に追い打ちをかけるかのように、エマちゃんは甘えるような声でシャーロットさんの事を呼んだ。

 それでシャーロットさんの心も折れたのだろう。


『………………花澤さん、お言葉に甘えてもよろしいでしょうか?』

『はい、もちろんです』


 エマちゃんの瞳に負けたシャーロットさんが申し訳なさそうに頭を下げる。

 亜紀は少し苦笑した後、シャーロットさんの言葉を笑顔で受け入れた。

 俺と同じように亜紀もこの結果を見越していたようだ。


 それから俺たちは亜紀主導の元買い物を進めていく。

 とはいっても、俺はずっとエマちゃんの話し相手をしていただけだが。

 献立は料理を作る亜紀が決めるし、食材選びなんか任されたところでどれがいい食材かなんて俺にわかるはずがない。

 そしてひっきりなしにエマちゃんが話し掛けてくるため、俺はずっとエマちゃんと話していたのだ。


『先輩、今日は何を食べたいですか?』

『青柳君は何がお好きなのでしょう?』


 腕の中で甘えてくるエマちゃんの相手をしていると、食材選びをしていた二人が俺のほうを向いて尋ねてきた。

 どうやら今日の献立は俺に合わせて作ろうとしているようだ。


 シャーロットさんも聞いてきたのは、いつの間にか亜紀だけではなくシャーロットさんも料理を作る事になっていたからだろう。

 彼女から料理を手伝わせてほしいと先程亜紀に頼んでいた。

 本人曰く、御馳走になるだけは嫌らしい。


『俺はなんでもいいよ。エマちゃんは何が食べたい?』


 亜紀の料理ならなんでもおいしいため、特にこれといって希望はない。

 それよりも、この中で一番幼いエマちゃんに選ばせてあげるべきだろう。


『んー? エマは、ハンバーグがいい!』


 俺に何を食べたいか聞かれたエマちゃんは、かわいらしく小首を傾けた後、自分が食べたいものを答えてくれた。

 ちゃんと答えられたエマちゃんの頭をよしよしと撫でて褒めてあげる。

 すると、『えへへ』と嬉しそうにエマちゃんは笑って俺の胸に自分の頬を擦り付けてきた。


 相変わらず反則級にかわいい子だ。


『どうやらハンバーグを所望らしいよ』

『そのようですね』

『わかりました』


 俺がシャーロットさんと亜紀にエマちゃんの要望を伝えると、二人は笑顔で頷いてくれるのだった。

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