第21話「甘えん坊の妹」
『ロッティー……おにいちゃんまだぁ……?』
ソファに座って私が大好きな本を読んでいますと、エマがクイクイッと私の服を引っ張ってきました。
そしてウルウルとした瞳で私の顔を見上げてきます。
今日も青柳君が遊んでくれると思っているエマは、彼の事が待ち遠しくて仕方がないようです。
きっと優しいお兄ちゃんが出来たと思っているのでしょうね。
『ごめんね、エマ。青柳君は遅くなるって言ってたから、まだこないと思うよ』
青柳君は夜遅くなってもいいなら、と言って私と約束をしてくださいました。
明確に何時から遊んで頂けるかは聞けていないのですが、きっとまだまだでしょう。
『むぅ……』
『そんなに頬を膨らませてもだめだよ? 青柳君は忙しいんだから』
『むぅうううううううううう!』
だめと言うと、エマは更に頬を膨らませて私のお腹に顔を押し付けてきました。
多分抗議のつもりなのでしょう。
力は弱いので痛くないのですが、あごがグリグリと当たって少しくすぐったいです。
『エマがいい子で待っていたら青柳君もきちんと来てくれるから、大人しく待っていよ? ね?』
私はエマを体から離し、優しく頭を撫でて言い聞かせようとします。
エマはまだ納得がいっていないようでしたが、コクリと頷いてくれました。
青柳君を出したのは少し卑怯だったかもしれませんが、エマには効果があったようです。
エマがいい子になりましたので、私はよしよしと頭を撫でて褒めてあげるのでした。
『――エマ、青柳君が来るまでにご飯食べてしまおうね? 今から一緒に買いものに行こっか』
『んっ……!』
買いものに行こうと声を掛けると、エマは嬉しそうに頷きました。
外に出られるのが嬉しいのでしょう。
エマが保育園に通うのは来週からですし、昼間は私がいないせいで家の中に一人閉じこもってます。
だから昨日は寂しくて家を抜け出してしまったのでしょうね。
今日は朝に、《いい子で待ってたら、青柳君が遊んでくれるよ》って教えると、エマは家できちんと待っていてくれたのです。
エマがこれほどまでに素直に言う事を聞いてくれるなんて、本当に青柳君に感謝しています。
外出用の服に着替えると、私とエマは仲良く手を繋いで家を出ました。
目を離すと危ないというのもありますが、単純に手を繋ぎたいから繋ぐのです。
私から手を繋いであげると、エマはとても嬉しそうにしてくれます。
この子は基本甘えん坊で手を繋いだり抱っこしてもらう事が大好きなのです。
ただし――イギリスでは、私とお母さん限定だったのですが……。
他の方が手を繋いだり抱っこしようとすると、エマは嫌がります。
家族ではない方だから嫌がっているのだと思っていましたが、青柳君には自分から求めていました。
どうやらエマの中では青柳君は特別扱いのようです。
彼はとても優しい御方ですから、特別に思うのも当然かもしれませんね。
きっと青柳君は優しいご家族の方に大切に育てて頂いたのでしょう。
エマも青柳君のような優しい人間に育つよう、大切に育てたいと私は思っております。
『あっ――おにいちゃんだ……!』
隣を歩く小さな妹を見つめていると、急にエマが嬉しそうな声を出しました。
エマが《お兄ちゃん》と呼んだという事は――。
私は、視線をエマから前方へと向けます。
するとそこには、先程思い浮かべたばかりの御方が歩いておられました。
同じ町に住んでいるとはいえ買いものに行っただけで偶然会うだなんて、何か不思議な縁を感じますね。
しかし――お隣を歩かれている御方は、いったいどなたでしょうか……?
青柳君の隣を歩く女の子。
綺麗な黒髪を両サイドに結んでいて、遠目からもわかるくらいかわいらしい顔付きをされています。
身長は140cmくらいでしょうか?
小柄な方ですが、顔の幼さと相まってとてもかわいいです。
そして――凄く、青柳君と親しそうです。
素敵な笑みを浮かべて青柳君の隣を歩く女の子の事が、なぜか私は少し気になってしまうのでした。
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