第14話「ベネット姉妹の攻防」
『えっとどうぞ……』
『お邪魔します……』
『おじゃましま~す!』
家の鍵を開けて中に入ると、緊張した表情のシャーロットさんと、ワクワクといった表情をするエマちゃんが俺に続いて入ってきた。
シャーロットさんが緊張しているのは男の部屋に上がるからだろうけど、エマちゃんの表情はなんでだろう?
俺の部屋をアトラクションか何かと勘違いしていないよな?
『ここが……男の子のお部屋……』
部屋に入るなり興味深そうに俺の部屋を観察するシャーロットさん。
異性の部屋が珍しいのはわかるけど、見られるほうからすれば勘弁してほしい。
『あの、シャーロットさん? あまりジロジロと見られると恥ずかしいんだけど……』
『ご、ごめんなさい』
俺に注意されたシャーロットさんは頬を赤く染めて謝ってきた。
観察していた事を恥ずかしがっているのだろうか?
汗の事を気にして恥ずかしがっていたし、結構シャイな子なのかもしれない。
――とまぁ、心の中では冷静に観察出来ているように思えるかもしれないが、正直俺の心臓は破裂するんじゃないかと思うほど鼓動が速くなっていた。
ただでさえシャーロットさんを部屋に招き入れて緊張しているのに、なんでこの子こんなかわいい表情をするんだよ。
反則にもほどがあるだろ。
頬を赤く染めて照れた様子を見せるシャーロットさんを、俺はもう直視する事が出来なくなりそうだった。
『おにいちゃん、ここ、すわって?』
いつの間にか俺を追い越して部屋の中央にいたエマちゃんが、床をポンポンッと叩く。
一応ここ俺の家なんだけど、この子の自由さは相変わらずだ。
とりあえずエマちゃんに指定された場所へと俺は腰かける。
生憎お客を呼ぶ予定なんてなかったため、座布団などは持っていない。
シャーロットさんたちには悪いが床に座ってもらうしかないな……。
『んっ……おにいちゃん、て、よけて?』
よくわからないが、エマちゃんの言う通り手を避けてみる。
すると――
『んっ……えへへ』
――エマちゃんが、俺の足の上へと座ってきた。
『『エマ(ちゃん)!?』』
予想外の行動にシャーロットさんと俺の声が重なる。
まさか足の上に座ってくるだなんて誰が予想出来ようか。
当の本人であるエマちゃんは、俺たちの反応なんて気にせず楽しそうに体を揺らしている。
そう思ったら、ポンッと俺の胸に背中を預けてかわいらしい笑顔で俺の顔を見上げてきた。
もう反応が追い付かない。
『エマ、だめだよ? 青柳君が戸惑ってるでしょ?』
俺よりも先に我に返ったシャーロットさんが、手を伸ばして俺の足の上からエマちゃんをどかせようとする。
『やっ……!』
しかし、エマちゃんはシャーロットさんの手を払って拒絶した。
それどころか、絶対にどかないという意思表示をするかのように俺へと抱き着いてくる。
『もう、言う事を聞いてよ……! これ以上困らせないで……!』
『やっ! ロッティーのいじわる!』
『意地悪じゃないよ……! 青柳君を困らせたくないの……!』
『おにいちゃんいやがってないもん! ね、おにいちゃん?』
俺の足の上で攻防を繰り広げるベネット姉妹。
どう反応したらいいのかわからず見守っていたのだが、急に話を振られてしまった。
頬を膨らませながら俺の顔を見上げるエマちゃんに、《だめって言って》と口を動かすシャーロットさん。
俺はいったいどちらの味方をすればいいのか……。
エマちゃんは幼いんだから我が儘を聞いてあげたいが、シャーロットさんがそれを望んでいないのなら断りたい。
だけど、断ればエマちゃんを裏切った事になる。
こんなの選べるわけがないだろ。
なんで俺は、自分の家でこんなに難しい回答を求められているんだ……。
第三者からすれば《何言ってんの、お前?》とでも言われそうな内容だが、俺としては結構深刻な問題だった。
どちらも裏切る事なんて出来ないからだ。
『おにいちゃん……』
答えを出せずにいると、エマちゃんがウルウルとした瞳で見つめてきた。
その瞳には《だめなの……?》という意思が込められているような気がしてしまう。
……………………ごめん、シャーロットさん。
『うん、嫌じゃないよ。エマちゃんが座っていたいなら、座っていていいよ』
エマちゃんの瞳にやられた俺は、結局エマちゃんの味方をしてしまった。
俺の答えを聞いてエマちゃんの表情はパァッと明るくなり、逆にシャーロットさんは困ったような表情を浮かべてしまう。
これでロリコンってシャーロットさんに思われたらどうしようか。
真面目に心配なってくる。
『青柳君は、本当にお優しい方ですね……』
『えっと、ごめん……』
『いえ、謝らなければいけないのは私のほうです。妹がご迷惑をお掛けして本当に申し訳ございません』
エマちゃんの行動に対してシャーロットさんが深くお辞儀をして謝ってきた。
全然シャーロットさんのせいじゃないのに、相変わらず真面目でしっかりとした子だ。
『いや、いいよ。本当に嫌じゃないからさ、そんなに気にしないでくれ』
『ありがとうございます……。私も、座ってもよろしいでしょうか?』
『えっ!? 俺の足の上に!?』
『ち、違います! 床にです!』
いきなりシャーロットさんは何を言い出すんだと思ったら、俺のほうが何を言っているんだという感じだった。
話の流れでなぜか勘違いしてしまったのだけど、そのせいでお互い顔が真っ赤になってしまう。
『ご、ごめん……。好きなところに座ってくれたらいいから』
『そ、それではここに――』
シャーロットさんは俺の対面となる位置に座った。
まぁ座る位置としては妥当だと思う。
これで隣なんかに座られれば、いよいよ俺の心臓が持たない。
『おにいちゃん、どこにいってたの?』
シャーロットさんの事を見ていると、腕の中にいるエマちゃんが話し掛けてきた。
『ん? 俺は後輩のところに行っていたんだ』
『こうはい?』
後輩を指す単語の意味がわからなかったようで、エマちゃんがキョトンとした表情で首を傾げた。
『あぁ、年下の子の事を言うんだよ』
『だったら、エマもおにいちゃんのこうはい?』
『うぅ~ん、少し違うかな?』
『むぅ……わからない……』
『あはは、そうだね、ちょっとわかりづらいよね』
多分説明しても理解出来ないだろうなと思い、俺は適当に誤魔化してこの話題を終わらせる事にした。
そんな俺たちのやりとりをシャーロットさんは黙って見つめている。
シャーロットさんにも話を振ろうかと思ったが、彼女の表情を見て俺は口を閉ざしてしまう。
するとエマちゃんが次の話を振ってきたので、そのまま俺はエマちゃんの相手をすることにした。
――俺がシャーロットさんに話を振るのをためらってしまった理由。
それは、俺の膝の上に座っているエマちゃんを見つめるシャーロットさんが、まるでエマちゃんを羨ましがるかのような表情をしていたからだ。
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