後半②
次の日の体育。実は楓のクラスと私のクラスは合同体育で、この日は男女共にサッカーだった。とてもいい天気で、晴れ晴れとしている一方、私は悶々としていた。もちろんそれは楓のせいであった。
「奈子だいじょーぶ? 」
寧々にも心配される始末だったが、大丈夫と言って体育に参加した。
女子の体育サッカーほど、やる気のないものはないだろう、と勝手に考えている。実際、大半の試合のない女子は、隣で行われている男子のサッカーを熱烈に見ていた。しかもその中心にいるのは、よりにもよって楓。
私たちの試合はまだで、コート外で待機していた。
「高月くん、やっぱ人気だねぇ」
寧々が他人事のように言う。
「……そうだね」
私はぶすくれて返す。
「最近どうなの? 」
「どうもこうも、何も無いよ。ただ」
「ただ? 」
「なんだか悲しい顔させちゃって」
「なんかやらかした? 」
「……かも」
「ふぅん」
すると寧々が突然こう言い出した。
「話聞いてて思うけど、奈子って好きだよね、高月くんのこと」
「え? 」
何を言ってるの?
「だって悲しい顔させたら凹んでるし、こうやって注目されてると、嫉妬してるし」
「な、凹んでないし、嫉妬してない! 」
「嘘つけぇ。だって最初っから名前も姿も思い出せないような子が高月くんって気づいたんでしょ? 私はその子のこと好きなんだろうなって思ってたよ? 違う? 」
うぅ、……確かに今思えば、なんで覚えていたんだろう。
「どんなイケメンに告られても興味なしで断ってきたあの奈子がさ、こうやって男子関係で悩んでるってこと自体がもうって感じもする」
……寧々の言うこと全てが正論な気がする。もう認めよう、私は……
話に夢中な私は気づかなかった。その時、サッカーボールが私に向かって飛んできていたことに。
「危ない! 」
どこからともなく声が響く。声は届いても、避けることは出来ず。案の定ボールは顔にストライク。私はそのまま気を失った。
私は夢を見ているようだった。ふわふわした心地で、幼い頃の夢を見た。小さい、茶髪の男の子と私がいた。私が男の子に飲み物を手渡していた。私が何かを言って、彼も何か言った。これは、きっと……。
目覚めると、そこは保健室だった。ムクリと起き上がり、周りを見渡す。
「あ起きた〜? 青葉さんねぇ、ボール当たって気を失ったのよ」
「……そうですよね。なんでここに? 」
「男の子がお姫様抱っこして連れてきてくれたのよ」
男の子?
「……どんな男の子です? 」
「えとねぇ、茶髪で、身長高かったわね。あ、それにイケメンだったわぁ〜」
あんな子なかなかいないわよねぇ、そう先生は付け加えた。……絶対楓だ。しかもお姫様抱っこて、私は彼女かなんかか! 恥ずかしい……。
「すんごい心配してたから、大丈夫って伝えてくれば? 」
にこっと先生が笑った。
先生の後押しを受けて、私はいてもたってもいられず、私は保健室を飛び出した。急いで楓のクラスに向かう。
自覚してしまった。思い出してしまった。今伝えずにいつ伝えようか。
廊下で、寧々と話している楓を見つけて、
「楓! 」
と叫んだ。驚いた楓は私の方を向いて
「怪我大丈夫」
「私楓のこと好きだ」
「……へ? 」
「それに思い出したよ」
肩で息をしながら、私は続ける。
「あんな、些細なことだったなんて」
私は笑った。それに対して楓は顔を赤くして
「仕方ないだろ! あの時は、お前が、その、天使に見えたんだ、し」
可愛い。私は微笑んだ。そして新鮮な空気を吸って言う。
「……付き合おうよ」
「……俺から言いたかった」
「ふふっ、ごめんて」
「いいよ。好きだよ、奈子」
「私も。好きだよ、楓」
こうして私たちは生徒たちの前で告白し、晴れて、カップルとなった。隣で見ていた寧々はやれやれといった様子だったけど、とても嬉しそうにしていた。
こうして、私は見事に落とされてしまった。楓という、幼なじみに。
青葉奈子編[完]
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