後編①

 それからの日々は、「覚悟しててね」なんて言ったくせに、激変する訳ではなくて、楓は私に毎日話しかけて来るようになった。今だってそうだ。


「……んでね、青葉? 聞いてる? 」


 今は昼休み。だいたいこの時間に楓は、やって来る。楓のさらさらの茶髪が揺れる。


「え? うん。聞いてる」

「良かった」


 ちょっと反射で答えてしまったけど、楓の笑顔は、それは眩しくて。昔と変わらずくしゃっと笑う楓は可愛くて。楓も変わらないなぁ、と思う。……そういえば。


「怪我治ったの? 」

「捻挫? もちろん治ったよ。俺治るの早いんだよね。好き嫌いせずに食べてるからか? 」


 面白いくらいのドヤ顔を顎に指を当てて決める楓。


「何それ」


 私もつられて笑った。

 私はこの時間が、雰囲気が好きだった。なんだか心落ち着くようで。でもそれと同時に、なんで、私なんだろうと思っていた。

 だから、気が緩んで、ぽそりと言ってしまった。


「……なんで私を好きなの? 」

「え? 」


 楓の瞳が大きく見開かれる。……しまった。私もハッとして、誤魔化すことも出来ないと思い、正直に話す。


「あ、いや……。なんでそんなに私のことずっと好きなんだろうって」


 すると、楓は悲しそうな顔をした。


「楓……? 」

「青葉は覚えてないんだね……」


 視線を私から外して、それは今にも泣きそうな表情だった。




 午後の授業中も楓のせいで集中出来ず。家に帰ってからも、あの表情のせいでぼーっとしていた。私何したんだろう、ちっちゃい頃、楓が私をあおばちゃんって呼んでる頃。……わからない。考えても考えても私に思い当たる節は無かった。


「奈子? どうしたのよ? あんたの好物の中華丼作ったのに、手止まってるわよ? 不味いの……? 」

「え! 美味しいよ! 」


 おかげで母にも心配されるほどだった。

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