後編②
翌々日、露は再び図書室に足を踏み入れた。
ここ一週間毎日通ってる気がするけど、まぁいいか。相変わらず滑らかに開かないドアにも慣れた。
いつものカウンター席に座る、のでは無く、読書用の席へと足を運ぶ。ふぅ、と一息つくと、心が落ち着いてきた。早く来ないかな、そう露は思う。
結局考えに考え抜いて、告白することにした。なんだかこう決断してみると不思議なもので、あれだけぐるぐる悩んでいたのだ馬鹿らしい。言おうが言わまいが、いちにぃはきっと私への態度は変えない、そんな確信に似た自信があった。私の気持ちを知っても、きっとのんびりと私に声掛けてくれる。そんないちにぃだから好きになったのだ。だからどうか期待を裏切らないでね、いちにぃ。
そうこうしているうちに、滑りの悪い扉が音を立てながら開いた。視線をやると、呼び出した人がいた。
「いちにぃ」
「どうしたの? つゆ。あれだけ俺のこと避けてたのに、急に呼び出してさ」
「うん、聞いて欲しいことがあるんだ」
こんなに朝早くに図書館を使う人がいなくて良かった。幸いにも心は落ち着いていた。
「どうした? 」
いちにぃが私の顔をのぞき込む。だから顔面偏差値高いんだって! やばいやばい緊張してきちゃったじゃん!
本当は顔を真正面から見て伝える予定だったけど、変更。露はぷいっと顔を背ける。
「つゆー? 」
……やっぱり元通りにしよう。顔は赤くても伝えられればそれでいいのだ、私は。付き合いたいとか、そーゆーんじゃ、無いし。
すすす、といちにぃに向き直る。
「いちにぃ、あのね」
「うん」
「私、いちにぃ…がね」
「…うん」
「好きなの」
驚くいちにぃ。露は続ける。
「でもね、別に、その、付き合いたいとか、そう思ってる訳じゃなくて、ただ、この気持ちを知っていて欲しいだけなんだ! 」
まだ何かを言おうとして口を閉じる。そしてまた口を開く。
「……だから、さ、返事はしなくていいの。……聞いてくれてありがとう、じゃあ、ね」
そう言って立ち去ろうとした。がたんと立ち上がる。すると、手首を掴まれた。
「いち、にぃ? 」
「…それはいくらなんでも、ずるいんじゃない? 露」
「え? 」
「俺からも言わせてよ」
え、やだよ。だっていちにぃは私の事好きなんかじゃ
「好きだよ、俺だって」
え…?
「好きでもない子にわざわざつっかかる? ……好きでもない子に避けられてるのに、わざわざ話しかけに行く? 」
「……だ、だって、いちにぃは昔からそういう人じゃん。誰にだって分け隔てなく接して、さ。優しい…」
「きっとそれは、露だけだよ」
泣きそうな露を壱弥は優しく抱きしめた。いちにぃの、太陽の匂いがした。
「ほんとに、ほんとに、私の事好き? 」
「うん。好きだよ、気づいたのは最近だけどね」
「わた、私も好きなの。大好きなのぉ……」
もう涙声になっていたけど、露は言った。頭をぽんぽんする壱弥。
「付き合おうよ、露。返事いらないとか、やめてよね」
「うん。ごめん。うん、付き合おう……」
こうして露たちは付き合い始めた。
クラスに戻ったら和から何その目! と言われたが、私の笑顔を見て、祝福してくれた。
ありがとう、紙切れの人。私に勇気を与えてくれて。
雪見露の場合[完]
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