後編①
このままでいいのだろうか。
自分自身への問いかけがずっと頭の中で渦巻く。まるで一人の人が分裂して、言い争いをするように、一人の討論はずっと続く。
お風呂のお湯に顔半分を浸ける。ぷくぷくと息を吐き出し、泡を作る。
壱弥のことが好きだ。これは露にとって不変のことで、壱弥がかっこよくて、優しくて、女子に人気なことも不変であった。だからこそ、平々凡々な露は身を引くべきで、一歩出てしまえば、どんなことが起こるかわからないのだ。露は壱弥と釣り合わない、そう考えた。だから、好きだから、引いてきた。それが今までの露で、でも、あの紙切れの人は勇気を振り絞って婉曲的な告白文を書いた。ずっとぐるぐる同じ思考回路を廻る。
あ、やばい。ずっと浸かってたら、のぼせてきた。
露は風呂から出た。まだ答えが見つからないまま。
いつもだったら勉強をしに、机に向かう時間も思考の時間になった。ずっと考えていても、結局答えは分からずじまい。
もう寝てしまおう。そう思い、スマホのアラームをセットし、布団に潜り込む。すると、ブブーとバイブ音がなる。少しの驚き、スマホを見る露。そこには一件のメッセージの通知があった。
「誰から? 」
ホーム画面を開き、確認する。相手は壱弥であった。
「いちにぃ!? 」
なんでだ?話すことなかったと思うけど。
「つゆー起きてる? 」
こんな文面が目に入る。
「起きてるよ
どうしたの? 」
「良かった
母さんが明日人参持ってくって
美香さんに言っといてくれる? 」
美香さんというのは、露の母だ。少しだけ甘い言葉を期待した自分を叱る。
なんだ、そういうことか。
「了解」
それだけ送って、アプリを閉じる。入れ違いにまた通知がなる。少しイラッとして、もう一度壱弥とのチャットを見る。
「おやすみ」
それだけ書かれていた。
「おやすみ」
露もそう返して、スマホを手放す。
あぁ、もうなんなの!? いちにぃは優しすぎるよ。また好きが募っていくばかりで、その夜、露はあまり眠れなかった。
目の下にくまをつくった露は眠い目をこすりながら、和に声をかける。
「おはよぉ」
「おはよ、露。なんか眠そうだね」
うん、と露。和は少し羨ましそうに言う。
「いいなぁ、そんな相手がいて」
「? どゆこと」
「好きなんでしょ、塚本先輩」
一度、和の言葉に目を見開く露。その言葉は紛れもない真実で、認めざるを得ない。なんて言ったってずっと、ずっと好きなのだから。それが和にばれただけだ。落ち着け、露。
「うん」
きっと避けてた頃じゃあ「違う」って、そう否定していた。でも、今は澄んだ気持ちで認めることができる。
「いい顔してるよあんた。ほんとに」
羨ましいぃ…、そう和はまた言った。
「で、告るの? 」
「んー、……」
黙り込む露に和は
「まぁ、露が納得すれば私はどっちでもいいと思うよ。…そのくまがなくなればいいね」
つまり、和は私が告白しようがしまいが、私がぐっすり眠れるようになれるといいね、と言っているのだ。うん、ありがとう、和。
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