第4話 理科の授業
また別の日。今度は理科の授業です。
アユン先生のこんな質問で授業は始まりました。
「みんなは、クジラの卵を見たことはありますか?」
クジラの卵…なんだかとても大きそうだなあ、などとピルくんが思っていると、クラスの中でもダントツで頭の良い鈴木さんが言いました。「先生、クジラは哺乳類だから、卵は産まないと思います。」
そうでした。ピルくんは恥ずかしくて顔を真っ赤にしましたが、ラッキーなことに誰も気づきませんでした。
「そうですね。さすがです。哺乳類なのに海にすんでいるのは、とてもおもしろいですね。」
「最初はお魚さんのように、生き物は海の中でしか生きられませんでした。それが、進化してカエルのような両生類になり、爬虫類になり、やがては鳥類と哺乳類になっていきます。進化するにつれて、乾燥しているところでも生き物は生きていけるようになっていきました。」
「でも、イルカとクジラだけは、哺乳類でありながら、海に戻ることを選択したのです。もちろん哺乳類ですから、肺で呼吸をします。お魚さんのようなエラ呼吸ではありません。有名な「クジラの潮吹き」は、クジラが海面に出てすぐに空気を吐き出すために、まだ体についている海水や、鼻の穴のくぼみにたまっている海水が、霧のようにふき飛ばされて白く見えている現象です。」
そう言ってアユン先生は、写真を見せてくれました。
「クジラの祖先はカバなどの仲間から分かれていったと考えられています。大昔には、陸上を 4 本の足で歩いていたのです。海にすむようになるととともにしっぽが発達する一方、後足は退化してしまいました。その証拠に、クジラのお腹の中をCTスキャンで見てみると、後足を支えていた骨盤のなごりを観察することができるのです。」
今日のアユン先生のお話しも、とってもおもしろかったなあ…とピルくんが考えていると、授業の最後に、なんとなくアユン先生と目が合ったような気がしました。
アユン先生は、最後にこう問いかけて、授業を終えました。
「せっかく乾燥に耐えられるようになって、陸地に出てきたのに、イルカやクジラはどうして海に戻ったんだろうね?」
ピルくんは、給食の時間になっても、家に帰ってからも、アユン先生のこの質問が頭から離れませんでした。
ピルくんも、韓国から日本にやってきて、将来はこのまま日本にいるかもしれませんし、イルカやクジラが海に戻ったように、韓国に戻るのかもしれません。でもそれは、自分の意思で自由に決めればいい、そんな気がするのでした。
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