第3話 社会の授業

そんなある日の社会の授業です。担任の田中先生が後ろで座って見ている中で、アユン先生が授業をしてくれました。


「みんな、これが何だかわかりますか?」


と言ってアユン先生は、1枚の写真を見せてくれます。


わからないはずがありません。


キムチ!とクラスの元気な子たちが異口同音に叫びます。


「大正解!みんな、よく知っていますね。みんなが韓国の食べ物にくわしくて、先生はとてもうれしいです。」


「でも、キムチは元々は、赤くもないし辛くもなかったのです。知ってましたか?」


みんな、不思議そうな顔をして見回しました。アユン先生は続けて言います。


「そもそも、今のキムチがどうして赤くて辛いかというと、キムチを漬けるときに唐辛子の粉を入れているからです。ところが、昔の韓国にはまだ唐辛子がありませんでした。ですから、赤くて辛いわけがないのです。」


「唐辛子の原産地は南アメリカです。みんな、1492年にアメリカ大陸に到達したのは誰だったか、覚えていますか?」


みんなが一斉に手を上げます。アユン先生に指名された佐藤さんが、元気よく「コロンブスです!」と答えました。


「そのとおりです。コロンブスのアメリカ大陸到達をきっかけにして、もともとは南アメリカにしかなかった唐辛子は世界中に広まっていきます。」


「唐辛子は、まずは南アメリカからインドに行って、中国に行って、なぜか朝鮮半島には来ないで日本にもたらされました。秀吉の朝鮮侵略のときに日本から唐辛子が朝鮮半島に広まったという説があります。17世紀、つまり1601年~1700年くらいになって、唐辛子はようやく韓国に広まっていきました。今のような赤くて辛いキムチが作られたのも、この頃からです。」


「ですから、韓国の野菜と、南アメリカの唐辛子とが出会うことで、キムチはとてもおいしくなったのです。」


こうしてキムチの授業は終わりました。


アユン先生はこんな風に、とてもおもしろい話を授業でしてくれるので、ピルくんはすぐにアユン先生のことが大好きになっていました。


ピルくんは、韓国のお母さんと日本のお父さんが出会って生まれた自分にも、キムチと同じで良いところがたくさんあるように思えたのでした。


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