第4話 ただの酔っ払いになった私達

「やろ?ここ、お気に入りなんやで」


 お気に入りの場所を喜んでもらえたようで、誇らしくなってしまう。

 見慣れた店内に入って、二人のテーブル席に向かい合って座る。


(うーん、私達、なんか、普通にデートっぽいことしとるな)

 

 ま、今更意識しても仕方ない。


「ニュートン一つ、レギュラーでお願いします」


 はやっ。和真が早くも注文を決めていた。


「それじゃ、私は、リンデマンス・フランボワーズで」


 ニュートンはりんご果汁を加えたビールで、割と有名だ。

 リンデマンス・フランボワーズは、ベリーを加えたビールで、私のお気に入り。


「和真、ニュートンって知っとったん?」

「いや、見て、おもろそうと思ったから、頼んでみただけ」

「おもろそう?」

「ニュートンの林檎の逸話にちなんだんやろ?」

「なるほどなあ」


 一瞬でそこまで連想して、注文する辺り、凄いのか変なのか。

 そういえば、仲間内で、爆速注文をするのが彼だった。

 ほとんどノータイムで決断するので、皆「はやっ!」というのが常。


 数分待つと、お待ちかねのビールがグラスに注がれて運ばれてくる。


「じゃ、かんぱーい!」

「かんぱーい!」


 チンとグラスを鳴らして、ビールを口に含む。

 甘くて、少し酸っぱい味が広がって、ほう、と息を吐く。


「おー、美味!ベルギービールとか初めてやったけど」

「和真は甘いお酒好きやし、合うやろ」

「よーわかっとるな。そうそう」


 なんでわかるんだろうと思ったけど、考えてみれば、一対一ではなくとも、そもそも、度々仲間内では飲んでいるのだ。


「で、和真は東京から京都戻ってきて、どうや?」

「んー。やっぱ、関西が肌に合っとるわ」

「関西言っても、大阪と京都やと全然違うと思うけど」


 これは、大阪で生まれ育って、そして、京都の大学に通った私の素朴な実感。

 良くも悪くも適当な大阪人と、そうじゃない京都人。


「ま、そこはそうなんやけどな。ところで、京都はよく行くんか?」


 あ、そうか。考えてみれば。


「和真に話したのは初めてやったね。私、京都の大学行っとったんよ」

「あ、そうなんや。仲間内でも話したことなかったよな」

「そうそう。やから、和真が住んどる中京区辺りも、結構、知っとるよ?」

「マジか」

「マジマジ」


 本来なら、普通に知ってそうな情報が欠落していた事に可笑しくなる。

 和真は茨城の大学に行ったとは前に言ってたけど、私がそもそも、自分の事をあんまり話していなかったのだ。内気というより、単に私が抜けているだけなのだけど。


「意外に共通項あるもんやね」

「私も意外やよ」


 京都の中高に通った彼。

 そして、彼が関東の大学に行った時期と入れ違いとはいえ、京都で過ごした私。

 ノリが妙に合うのは、そのせいかもしれない。


「よし、どんどん飲もー!」

「由香子のオススメは?」


 そんな風にして、どんどん京都話が盛り上がって、気がつけば午後八時。

 次の花見の事を考えると、そろそろ出ないと。


「すいませーん。お会計お願いしまーす」

「?」


 このバーはまだ閉店には早い。

 だから、本来なら、今、会計をする必要はないのだけど。


「んー、なんか盛り上がってきたし。花見でも行かへん?」


 もうノリだ、ノリ。


「おー、ええな。地元民の由香子としては、オススメスポットは?」


 よし来た、と、高揚感を覚える。


大阪城公園おおさかじょうこうえん!」


 転入して来てから、毎年、毎年、行っている定番のお花見スポットを挙げた。

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