第26話 決戦! 風神竜 その二

「こりゃあ、かなり怒らせてしまったようだな……」


 風神竜が動かない隙に【竜の雷撃ドラゴンライトニング】を放ったのだが。さして効果はなかった。

 その代わり、いい宣戦布告になったらしい。『私のために死んでくれ』とはなかなかご大層なものだ。


『砕け散れ、人間風情が!』


 風神竜がこちらに訴えかける。

 大きく息を吸うと、勢いよく吐き出した。


 何か魔法が仕掛けられていたわけではなかった。だが、それはこちらからすれば暴風そのものだった。


 相棒の神竜から落ちそうになるが、体勢をうまく崩したことでどうにかなった。

 遠く離れていた心優に大きな影響はなさそうだ。有栖も飛ばされずに済んでいる。


『よく耐えたものだ。ただ、今度はそうもいかないッ! 【空斬】』


 空気が固まり、いくつもの塊が出来上がっていく。そのひとつひとつが、刃物のような形状となっている。


「これか、心優のいっていたやつは… …」

『とくと喰らうがいい』


【空斬】が、息をつく暇もなく飛んできた。俺は、攻撃の当たらないようにと、神竜を操作して避難する。

 当たり損ねた【空斬】は、ダンジョンの壁に衝突し、次々と巨大なクレーターを形成した。

 勢いのあまり、地面が大きく揺れる。


「なんていう力だ、さすがは【ダンジョンマスター】ってか」

「これ以上の攻撃が何度も来る。警戒を怠らないで」

「……さっそく攻撃が当たってしまったよ。掠った程度だけどね」


 有栖の様子を確認する。

 太ももの当たりを擦っていた。その割には、少々出血が酷い。見た限りでは、歩けなそう、というわけではなさそうだが。


「少し当たっただけなのにこの様だよ。あれは尋常じゃない」


 戦闘に何かしらの支障がきたすことは間違いだろう。


「一方的に攻められたらやってらんねえな」

「それはボクも同じことさ。次はボクがいこうか」

「有栖!」


 有栖は手中に収められた爆弾を、風神竜に向かって解き放つと、心優のいる後陣までいったん引いた。


『フフフ、所詮はただの小型爆弾。その程度では、傷ひとつつけられないのではないんじゃないのか』

「ボクの追尾型を舐めてもらっては困るな」


【空斬】の間をすり抜け、スピードを落とすことなく爆弾が近づいていく。風に流されることはまるでない。


『なぜ、この程度の爆弾が私の方まで届く!?』

「小さな爆弾であろうと、MPの消費を増やして魔力の密度を上げれば話が変わってくるのさ。簡単な話だろう?」

『く、小賢しい』


 ついに、数十の爆弾が風神竜に着弾した。次々と爆発が起こる。【竜の雷撃ドラゴンライトニング】と比べれば地味だが、しっかりダメージは入っているようだった。


「竜司くん、ダメ押しにもう一発いくんだ!」

「ああ、もちろんいくさ!」


 爆撃を喰らい、怯んでいる隙をつく。


「大地をも凍てつく氷の力、ここに顕現せよ。【氷の咆哮アイスブレス】」


竜の雷撃ドラゴンライトニング】と同じ要領で、風神竜に対して攻撃を仕掛けた。あっという間に風神竜の体が氷漬けにされていく。


「順調だ、悪くない……あとは有栖とチェンジするだけだな」


 風神竜は完全に動いていない。この隙に、有栖の【守護領域ガーディアンエリア】を発動した状態での自爆攻撃が入ればかなりいいのだが。


 旋回し、風神竜との距離をとっておく。そして、有栖のいるところまで一時的に退却した。有栖の様子を再度確認する。足の傷は完全に治っているようだ。


「かなりいいんじゃないか。想定以上にうまく動けている」

「……甘く考えないほうがいいかもしれないよ。あちらの体力を削れた感覚があるのかもしれないけど、こんなんじゃ、まだまだビクともしてないと思うよ。擦り傷程度じゃな────」


 心優がこの後の言葉を告げることなく、風神竜を覆っていた氷がピキピキと破裂し始めた。


「これでもダメだってのか……」


 完全に氷を突き破り、風神竜は吠えた。


『悪くないだろう。しかし、まだまだ序盤といったところ。まるで決定打にはなっていない。つまらない。もっと楽しませてくれ……!』


 そういうと、あいつを中心に風が巻き起こるのが見えた、

 はじめの咆哮とは違い、竜に乗っている俺も、地面に足をつけているふたりも、踏ん張ることは不可能だった。風に吹かれて、ダンジョンの壁に衝突する。


「なんて力だ……」

『これこそ我が【魔風領域】。さて、どうする?』


 ただでさえ決定打が入らないというのに、【魔風領域】の展開。これではスキルを発動させられるかどうか怪しくなってくる。厳しい展開だ。


 有栖はただ呆然としていた。言葉だけでは、その恐ろしさを感じ取れきれなかったのかもしれない。

 俺も、この先戦えるかどうか不安に思ってしまう。


『……汝、かの風神竜に恐れをなしているな』

「それはそうだろう、勝機が見えてこない……」

『何をいっている。君には【早熟アーリーブルーム】という逆境を跳ね除ける力、そしてそれを支える【神竜の加護】というスキルを持っている。よもやこれを使わない気ではあるまいな』


 そうだ。古海との戦いを思いだせ。新たな戦術を手にできる可能性は大いにある。ともかく、いまは戦うだけだ!

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