第25話 決戦! 風神竜 その一


「あれが、例の【ダンジョンボス】か……」


 コロッセオの中心に、竜が鎮座している。姿かたちは俺の相棒・黒神竜と似ている。色違い、とでもいおうか。


「神竜、あれはお前の仲間か何かか?」

『久々の会話でそれか。私が汝に都合よく利用されているだけにも感じてしまいそうだ』

「それをいわれちゃこちらの立場がないんだが」

『……正しいといえば正しい、正しくないといえば正しくない。定義するのが難しい』

「名前はわかるのか?」

『そういえば教えていなかったな。奴は風神竜という』


〝黒〟神竜に、〝風〟神竜。このダンジョンにいる竜は、みな何かしらを司っているのだろうか。


「……そうよ、思い出した。あれは風神竜。知能があって、人の言葉を使えるの」

「人の言葉を使えるモンスターが存在しているのか」

「キミも人語を使える、竜人という名のモンスターじゃないか」

「俺はただの人間だ。冗談はよせ」

「そう怒らないでくれ、悪かった。戦いの前に緊張をほぐしておきたかっただけさ」


 さすがの有栖も、この数ヶ月で俺が人間であることを認めてくれているので、このやり取りは少し懐かしい。


「風神竜の言葉に惑わされないよう、気をつけないとね」


 なんの疑いもなく、自然に受け入れていたことだが、神竜も人の言葉をはなせる。それもテレパシーのような形で。ゆえに他人にはまさか神竜と会話をしているなんて思われていない。


「そうだな」


 風神竜は、いまだ何ひとつ動きを見せていない。

 きっと、こちらの動きを待っている。


「……さて、どう攻める。短期決戦を仕掛けるか? 心優、一度戦った身としてどう思う」

「短期決戦なんてもってのほかだよ。そんなことをすれば、あっという間に八つ裂きになるから。長期戦は覚悟しないといけないと思う。なんせ体力が無尽蔵にあるから」

「そうなのか」

「そのうえ、遠距離攻撃も凄まじい。体勢を立て直そうとする余裕も、あまりないよ。余裕のある戦いじゃない」


 俺はついうなってしまう。これまでの戦いに比べると、厳しい戦いを強いられることが推測される。

 下手をすれば、この中の何人かが犠牲になってもおかしくはない。


「風神竜が使う技は、主にふたつ。

 ひとつ、【空斬】。刃物のように鋭い風が、いくつも連なって、高速で迫ってくる。まともに喰らえばスパッと斬れるわ。

 ふたつ、【魔風領域】。風神竜を中心に、竜巻が発生する。この状態になれば、攻撃はまず入らないといってもいいわ」


 この感じだと、有栖の【爆裂天使バーニングエンジェル】が届くか心配になるが、本人いわく


「追尾の爆弾は風の中でもきちんと動いてくれるさ。すでに実証済みだよ。ただ、風の強さにもよるけどね」


 と余裕を見せていた。


 俺の使えるスキルは、【竜の雷撃ドラゴンライトニング】・【氷の咆哮アイスブレス】・【殲滅魔導追尾砲・光】。


「毒をもって毒を制す」ではないが、竜には竜をもってして倒すしかなさそうだ。そもそも今使えるスキルが【人竜融合】時には使えないという事情があるが。


「さあ、いきましょう。私は後衛でサポートに回ります」

「心優、攻撃には気をつけろよ」

「もちろん。心得ています」

「それじゃあ有栖。ここは二手に別れるぞ。俺は相棒に騎乗して戦うつもりだ。有栖は後方で援護を頼む」

「けっきょくは君が美味しいところを持っていくのか。まあいいさ、しっかり援護しよう」


 作戦会議ののち、ようやく俺たちは風神竜との間合いをつめ始めた。


 俺は神竜に騎乗して空を飛びながら。有栖は手に幾多もの爆弾を握りしめながら。心優は魔石をいくつか口に含みながら。


 一歩ずつ進む。風神竜の反応はない。羽がピクリと動くことすらない。動きがなさすぎる……。余裕綽々よゆうしゃくしゃくとしている。


「さすがに動きがない。まずは一発打ち込んで……」



「ウァァァァァァッッッッッッ!!」


 その言葉を遮って、風神竜が雄叫びを上げた。

 こちらを敵と認識してくれたようだ。


 よく見ると、レベルがはっきりとわかった。


 ──────Lv570。


 こちらと比べて数十も高いではないか。


「うそ……前に戦ったときよりも、うんと強くなってる……」

「なんていうレベルの差だ……こんなの、初耳だよ……」

ひるむな! もうあとには引けないんだ。戦うしかない」


 すかさず、俺は神竜に命じた。


「竜騎士、赤城竜司が命じる。雷霆らいていよ、その光を持ってして、かの

 竜を貫きたまえ。【竜の雷撃ドラゴンライトニング】!」


 神竜は雷を口内で生成する。ギュイン、ギュインと連続して音が響く。



 そして、発射。



 読んで字の如く、光の速さで雷撃が走る。

 それは、雄叫びを上げ続ける風神竜の腹部を貫通した


 痛みに悶える叫び声に変わる。


「入ったか?」


 あまりの威力のために煙が上がって、風神竜の様子が見えない。


「どうなったの?」


 しばらく経って、煙の幕が上がる。


「う、嘘だろ……」


竜の雷撃ドラゴンライトニング】は、貫通していなかった。若干、腹が焦げた程度である。


「どんな仕組みをしていやがる。【ダンジョンボス】というのは」

「竜司、あれを見るんだ!」

「……!!」


 俺が目にしたのは。


 体全身に風を纏った竜の、怒りに満ち溢れた眼差しだった。


『いけないよ、人間……この私の寝込みを襲うなんてね。さすがの僕も、寝起きだからってうかうかとはしていられなくなったらしい……全員、私のために死んでくれ』


 風神竜は、冷静に怒りをあらわにした。

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