第23話 ボスに挑む覚悟

 小竜スモールドラゴンはあらかた討伐することができた。この三人の戦闘能力はこの階層でも十分通用するようだ。


「俺たちの他に誰もいないな。まるで貸切も同然じゃあないか」

「そういうものだよ。ここら辺の階層が、初級者と中級者の別れ道ってものなんだよ」

「なるほどな。有栖は詳しいんだな。ああ、初耳だったよ」

「ぐぬぬ……ボクの口癖をまねないでもらえるかな? しかもわざとらしく……」

「そんなに怒ることじゃあないだろうが。落ち着いてくれ」


 俺は機嫌を損ねかけた有栖をなだめる。どうにかして落ち着けると、有栖は詳しい説明をしてくれた。


 舞風ダンジョンでは、初級の探索師が多い。多くは上層、つまり第二十層までが探索可能な範囲だという。大概の場合、手に入れたユニークスキルが悪いか、パーティーを組まないソロの探索師だと相場が決まっているらしい。


 第二十五層を超えてから、明らかに探索師と遭遇する機会が減ってきていて、会ってもソロではない、という印象を抱いていた。

 上層で物足りないような探索師は、別のダンジョン────この近くでいえば、青草せいそうダンジョンにいく。


 青草せいそうダンジョンは、中級者向けのダンジョン。上級者のほとんどが、ここを戦場としている。そして、一部の上位層が攻略するのは、 焔滅えんめつダンジョン。最前線はこのダンジョン。


 少し前、神竜は


『三つのダンジョンに敵は潜んでいるといった。それは舞風ダンジョン・青草ダンジョン・焔滅ダンジョンにそれぞれ一体ずつだ』


 ということをいっていた。


 きちんと教えてくれたのは最近のことだった。どうも、舞風ダンジョンの攻略が終わるまでこの情報は必要ないだろう、という判断だったようだ。検討はついていたが、さすがに説明不足にもほどがあるだろうが。


 閑話休題。


「……で、大事なのはここからさ」


 このダンジョンの最下層には、【ダンジョンボス】が生息しているとのことだった。ダンジョンが現れてしばらく経つというのに、【ダンジョンボス】は一度も攻略されたことがないという。


「最前線のパーティーも挑んだそうだけど、倒せなかったらしい。指一本触れられなかったらしいよ。それから何度も挑んだそうだが、結果は出ていない。それからというもの、【ダンジョンボス】へ挑戦したものはほとんどいないそうだ」


 ということは。もし俺たちが【ダンジョンボス】を倒せたら、相当な快挙となる。なんせ、誰も倒したことのないモンスターなのだから。


 ────果たして勝ち目はあるのだろうか?


 もし、最も難易度が低いダンジョンで目的を果たせなかったら、これから先に未来はない。絶対に倒さなくちゃあならない相手ではあるが、不安が付き纏うのは当然だった。


「燃えるだろう? ボクはこのメンバーならいけるんじゃないかと踏んでいる。挑戦する価値は十分にあると思う。いくかい?」

「……ああ、腹が決まった。ここから先、頑張って最下層まで進もう」

「私はあまり役に立てないかもしれませんが、頑張ります!」

「よし、決まりみたいだね」

「おかしいな……いつの間にか有栖がこのメンバーを仕切るようになっている気がしなくもないんだが。一番の新入りだというのに」

「それをいえば、君もダンジョン探索を始めたのが一番遅いじゃないか。君こそ新入りと言えるんじゃないのかな?」

「むぐぐ……」


 たしかにその通りだった。たとえレベルが人並み以上に高く、竜騎士という強い能力を得ているとはいえ、まだダンジョンに対する理解は浅いといえる。ここから先は、ダンジョンに慣れている、有栖と心優に判断を委ねることが大事になってくるだろう。


「少し意地悪なことをいったね。君の力を信用していないわけじゃあないんだ。スキルを過信し、それだけに依存する状況になりかねない。あくまでスキルは道具だということを忘れないでいてほしい。それだけさ」

「肝に銘じておく」


 曲がりくねった通路をいくつも越えていく。ひょいと姿を見せたモンスターは、己の剣で斬り伏せる。

 どのモンスターも、倒せない敵ではない。少し時間はかかるが、真っ当に戦えば負けることはない。小竜スモールドラゴンレベルのモンスターばかりだ。


 ……順調すぎる。


 嵐の前の静けさとでもいおうか。まるで強いモンスターがいない。そして、下の層に行けば行くほど、出現するモンスターも減ってきている。


「この層も、階層ボスがいない……」

「妙だね。ダンジョンの摂理に、まるで従っていないようだ」


 ここの【ダンジョンボス】がいまだに未討伐であるのを忘れてしまいそうだ。むろん、そういった甘い見積もりのせいで敗れた探索師がいたっておかしくない。


「この下がどうも下最下層らしいね」

「さすがに俺でもわかる。〝何か〟がこの下でうごめいてるってのがな」

「凄まじい負のエネルギー……死すら連想させるくらいの、暗澹あんたんたる何かがいる……」


 服や髪が、風になびいた。よどんだ空気が突き抜ける。

 先に進めば、もう引けないだろう。

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