第22話 舞風ダンジョン、三十五層にて

 有栖と出会ってから、はや二ヶ月が経つ。


 俺は、Lv480へと到達していた。


 レベルが上がるにつれて、同じように敵を倒してもレベルが上がりにくくなったように思う。


 古海を死に至らしめたゴーレムのレベルくらいに、ようやく辿り着けた。

 神竜がいっていた、〝三つのダンジョンに潜む敵〟 と戦える日も、そう遠くはないだろう。


「ついに、三十五層に来たんだね。正直信じられないよ。竜司がいなきゃ、この数倍はかかっていたんあじゃあないかな」

「そんなことはないさ。全員の協力があってこその三十五層到達だ」


 数十体ものを階層ボスを撃破してきたが、実感がわかなかったりする。


 途中から、上の層にいたボスの上位互換、さらにその上位互換……となり、モンスターの種類自体は多くなかったのだ。


 レベルが上がり、こちらの技の精度も上がったことで、たとえ上位互換だとしても体感的には楽だった。


「それにしても、だ。さすがは人間紛いのやつだよ。この短期間で二つも新しいスキルを習得するとはね。初耳だよ」

「私もすごく驚きました。これまで見た探索師は、だいたい一つの魔法────派生した魔法は一つと考えるとね────を習得するのが精一杯だっていうのに」

「褒められると反応に困るな……」

「素直にありがとう、でいいんじゃないかな。ボクは純粋に君のことがすごいと思ったんだからね」

「それじゃあ、ありがとう」

「それじゃあ、って。まあ、キミらしいね」


 この二ヶ月間で、俺は新たなスキルを入手した。


 その一、【竜の雷撃ドラゴンライトニング】。


 名前の通り、電気系のスキルである。手から一筋の雷撃を放つ技だ。


 なんと、それを黒剣にまとわせることもできる。追尾機能はないので、有栖のスキルには劣るものの、かなり有用だ。


 その二、【氷の咆哮アイスブレス】。


【人竜融合】を解除したときだけ、神竜を通じて使える。


 使った相手を凍らせることで、かなり戦闘を有利に進められる代物だ。

 難点は、【人竜融合】を解除するときが少ないことだろう。


 その三、【神竜の加護】。


 戦闘で使うようなものではない。よく効果はわかっていないが、きっと有用なものに違いないだろう。

 まだ使ったこともないし、どんなものかわかっていないので、二人には伝えていない。


「そういう二人だって、かなりこの期間で成長したんじゃないか?」


 心優は回復効率が向上した。

 有栖も爆弾の威力が向上し、生成に消費する魔力を削減できるようになった。


「キミにいわれると少し素直に受け取れないな」

「何をいってもすぐに有栖は何かと言いがかりをつけてくるな」

「からかっているだけさ。間に受けないでくれよ」

「はいはい、この話はもう終わりだ。早くモンスターを討伐するぞ」

「つれないなぁ」


 着実に、俺たちは高みへと近づいている。


 さて、最近わかったのだが、このダンジョンは初心者向けらしい、ということだ。


 別のダンジョンだと、モンスターの強さが桁違いであるという。そのぶん稼げるらしいが、生きて帰れるものは多くないそうだ。


 たとえ成長スピードが常人より早いとはいえ、たった数ヶ月で上位層に食いこめるほど、探索師は甘くない。


「そろそろこのダンジョンも最深部。気合を入れていくぞ」

「そうだね」

「頑張りましょう!」


 三十層に差し掛かってから、新たに小型の竜がモンスターとして現れるようになった。


 自分が竜騎士であるせいか、共喰いをしている感覚に陥る。やりにくが、「レベルアップのためだ、仕方ない」といいきかせることで、どうにか討伐している。


 探索していると、さっそく。


「あれは、小竜スモールドラゴンッ! 数にして、五体ッ!」

「いくぞ、有栖」

「ああ!」

「【人竜融合】!」


 まずは、竜騎士になることから始める。


 変身後、すかさず、【竜の雷撃ドラゴンライトニング】を展開した。

 有栖も、十数個の爆弾を瞬時に生成したようだ。


「喰らいな、ボクの一級品をッ!」


 まずは、有栖の攻撃からだ。

 薙ぎ払われた爆弾が、均等に分かれて小竜スモールドラゴンを追う。


「ギュ、ギュアアアアッッ!」


 不意打ち。炸裂した爆弾によって体が傷つき、痛みを訴える。

 小竜スモールドラゴンの動きが、鈍くなった。


「【竜の雷撃ドラゴンライトニング】!」


 分厚い手の平を、魔力が貫通した。火花が散り、ビリビリと音がする。


 攻撃のイメージは、竜の体を突っ切る、一筋の光。はっきりとしたイメージは、スキルの正確な具現化の手助けとなる。


 まずは一発。小竜スモールドラゴンの頭部を撃ち抜いた。一瞬で灰と化す。


 すかさずもう一発。今度は胴体を。

 この流れを、最後の一体になるまで続けた。


「さすがだね。やっぱり【竜の雷撃ドラゴンライトニング】の威力は計り知れない」

「有栖のサポートあってこそだ。さすがにすべて一撃とまでは行かなかった」


 見たことがないのでわからないが、俺とそれ以外では、そこそこレベルの差が開いていると思う。


 じっさい、今の戦闘はほとんど自分の功績だ。こういうと嫌なやつに聞こえるが。


 とはいえ、有栖の攻撃でしっかりとダメージは入っている。極端な差ではないのだろう。





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