第21話 新たな仲間、有栖夏希

 有栖が自爆した。

 熱風にさらされる。【人竜融合】で鱗に覆われているものの、痛みは無視できない。

 砂埃が舞い上がる。八ツ橋を巻きこむのが目視できた。それを最後に、視界を奪われてしまう。


「どうなったんだ……!」


 爆風がおさまり、視界が開けた。

 鱗の一部が剥がれ落ち、傷になっているのがわかる。


「さすがは化け物だ。ボクの自爆をまともに食らって、その程度で済むとは」


 有栖は、無傷だった。砂の一粒もついていない。まるで、この空間から隔離しているのではないかとすら思ってしまう。


「ダメージがまったく入らなかったわけじゃあない……それより、有栖。なぜあんたは無償なんだ? あれほどの爆発を引き起こせば、ただで済むはずがない」

「ボク、有栖夏希ありすなつきのユニークスキルは【爆裂天使バーストエンジェル】。自身の魔力を爆弾として具現化し、自由に操ることができる能力を持っている。そして、特筆すべきは【守護領域ガーディアンエリア】。自分の作った爆弾の影響をほぼ受けずに済むよう、結界が施される。ほら、この通り」


 そういうと、有栖は自分に向けて小さな爆弾を投げる。

 爆発の瞬間に目を凝らす。有栖の体に当たり、炎が上がるはずが、上がらない。被弾したあたりに、うっすらと薄い膜のようなものが浮かび上がる。


「嘘ではないようだな。さて、そんなチート能力があれば、いくらでも爆発させ放題じゃないか。あんな細々とした爆弾をいくつも投げる必要なんてあったのか」

「爆弾の生成には、多くの魔力────つまり、MPを消費する。一度に大量に使えば、すぐゼロになってしまう。MPをすべて消費したとき、何が起こるかは知っているかな?」

「わからないな。なんせ、見たこともじっさいに経験したこともない」

「魔力ゼロが意味すること……意識が消えないままの状態で、体が完全に硬直する。そういう人、何度も見てきたからわかる」


 俺が頭を悩ませていると、八ツ橋が助太刀してきた。


「その通り。モンスターの戦闘中にMPを切らしたら、一巻の終わりだね。意識はあるけど、体が動かなくなるんだよ? 趣味が悪い。そんな状態で殺されるなんて、想像するだけで気分が悪いよ」

「爆弾を小出しにしていたのはそういうわけか」

「あの程度の爆弾で十分だと高をくくっていたところもある。その上、ボクはそもそもMPがじゅうぶん残っていたわけではないからね……そんなことをいっていたら、急に疲れが……」


 有栖は倒れそうになった。足元がおぼつかなくなり、俺にもたれかかる形になる。


「申し訳ないよ。調子に乗りすぎてしまったらしいね。魔石を持っていないか? 自然回復を待っている場合ではなさそうなんだ」

「……私に任せてください。回復術師ですから。すぐに楽になるよう努力します」

「それは助かるね。処理をせずに魔石を取り入れると、あまり気分のいいものではないからね」


 八ツ橋は、俺がオークを倒したときに落とした魔石を取り出す。口に入れると、魔石は一瞬にして液体に変わった。それをゴクリと飲み込む。


「竜司、有栖さんを横にさせて」


 有栖を寝かせると、八ツ橋は心臓部分に手を当ててやった。


「八ツ橋心優が命じる。かの者の傷に、大いなる癒しのあらんことを。【完全治癒パーフェクトヒール】」


 有栖の方へ魔力が流れた。次第に活気が取り戻されていく。


「……さて、これでおしまい。大丈夫だった?」

「助かった。下手をすれば、モンスターか探索師の格好の餌食となっていた。せっかく苦労して手にした魔石まで使わせてしまって。何かお礼をさせてくれないだろうか」


 お礼、か。

 現在、俺と探索を共にしているのは八ツ橋だけだ。回復術師がいるのは、かなりありがたい。安心して無茶な行動に出られる。 

 

 ただ。モンスターに対して攻撃できるのは、俺だけだ。

 俺が戦闘不能になってしまえば、八ツ橋も死ぬしかない。そんなリスクを負わせ続けるのは、申し訳ない。


 だから────。


「有栖。君に、俺のパーティーに入ってほしい」

「ボクが、かい?」

「そうだ。正直にいってしまえば、【爆裂天使バーストエンジェル】という能力は魅力的で使えそうだと思ったにすぎない。それでも、君と探索がしたいと思ったことに間違いはない」

「いっておくが、ボクはそもそも君のことを信用していない。人間だか竜人だかもよくわからない生物とともに過ごすというのは不安で仕方がない」

「ダメか」

「いいや。不安だが、君の実力は認めざるを得ない。常人を超えた実力を持つ君に、興味を持っていないといえば嘘になる。それで満足というなら、ついていってもいい」


 有栖は、俺の手をギュッと握る。小さな手だった。それでいて、温かみがある。


「よろしく頼むよ、竜司」


 有栖が笑いかけてきた。つい、胸がきゅっと引き締まった感覚に襲われる。


「竜司くん、にやけてるよ?」

「嘘だ、別に少し可愛かっただなんて思っていない、断じて」

「ボク、女だとも男だともいってないんだけどな。もしかしたら同性に惚れているかもしれないよ?」


 悪魔的な笑みを浮かべる。まったく、有栖という人物は素性が読めない。





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