第20話 有栖夏希の【爆裂天使】
「さあ、いくんだ! ボクの子供たち!」
有栖は手から小型の爆弾を薙ぎ払うように投げた。一直線に並んだ爆弾は、一見よけるのが難しくなさそうである。
「八ツ橋、かわすぞ!」
「はい!」
俺は八ツ橋の手をとった。爆弾がくるであろう場所から逃げる。
しかし、そうはうまくいかない。
途中で起動が急に変わったのだ。物理法則に従って軌道を描いていたのが、こちらを追尾するような動きに変化する。
「甘いね。ボクの爆弾を舐めてもらっては困るんだよ」
爆弾の軌道が似通っていき、しだいに複数の列をなした。
いくつかの爆弾は途中で落下した。見た限りでは、ひとつひとつの威力はさほど大きくないらしい。
そうやって甘く見ていると、痛い目に遭う。ひとつひとつが些細なものでも、組み合わされれば無視できないものになる。
「逃げてばかりじゃなくて、もっとボクを楽しませてはくれないのかな?」
本当なら、いますぐにでも【人竜融合】を解除し、神龍に騎乗し接近したい。
しかし、その余裕すら与えないペースで、有栖から新たな爆弾が投げられる。
【人竜融合】を解除して、生身になった瞬間。
爆弾によって蜂の巣にされれば、意味がない。それなら、爆弾のダメージを軽減できるこの姿でいる方がいい。
ダメだ、もう少し考えよう。
有栖の投げる爆弾は、現実世界に存在するような代物でないことは確かだ。ユニークスキルかスキルの類いと見て間違いないだろう。
「待てよ……」
つい爆弾は刀で切れないものだという思い込みがあった。ただ、スキルが関わっているとすれば、この剣で断ち切ることも可能ではないだろうか。
「とにかく、試すしかない!」
爆弾と距離を取ったうえで、接触するギリギリの場所で剣を振るう。
爆弾が、剣に衝突する。さほど重い感触ではない。
一刀両断された爆弾は。モンスターのように消失した。
「よし、勝てない戦いではなさそうだ。八ツ橋、このまま突っ切るぞ。斬り損なったものはうまくかわしてくれ!」
八ツ橋は素早くうなずいた。こんな命令しかできなくて、申し訳ない。どうしても、ふたりだと八ツ橋を危険に晒してしまうことになる。
「ゼアアッッ!」
向かってくるものを、俺は斬る。視界に入るものは、すべてこの剣の獲物だ。
「いいねぇ、そうだ、そうこなくっちゃね」
体感では有栖に近づけているつもりだが、現実は違う。相手は爆弾を投げるだけでよいのだ。距離をとることなどたやすい。
だからこそ、剣を振るうスピードを上げるほかなかった。
俺の剣戟が、さらに加速する……!
腕は辛くなかった。【人竜融合】がおこなわれていると、身体機能が上昇しているように感じる。
どこの誰とも知らない人物にやられては、本来の目標など達成できるはずもない。こんなところで、負けるわけにはいかない。
「まだ加速するのか。そんなの初耳だよ」
こちらの剣戟が加速する一方で、あちらの爆弾の勢いと威力が衰えていく。相手の消耗が激しいなんて、いわずもがなのことだ。
踵を軸に、百八十度、回転。
「【バックステップ】!」
本来は後ろに大きく下がるためのスキル。それを、今回は有栖との距離をつめるために使わせてもらおう。
もう、背後の八ツ橋を気にかけなくとも平気そうだ。
数発着弾するも、さほどの痛みではない。気にせず、ガッと間合いを削る。
「これで終わりだッ!」
背後に周りこみ、有栖の首元に剣を突きつける。
「さすがだ。まさかここまでの相手だったとは。もし君が探索師なら、ダンジョンに潜ってそこそこ長いのだろう?」
「まだ一ヶ月、経っていない。まだまだ新参者の探索師だ」
「一ヶ月? 冗談はよしてほしいな。少なくとも半年は潜っていないとその実力には至れないだろうね」
【
「さて、そろそろ首元から剣を離してくれないかな? そろそろ本命の爆弾が爆発する頃だからね」
「どういうことだ?」
「まさか、ボクのスキルがあれだけだとは思っていないよね? いざというときのために、ひとつくらい他の技があったっておかしくないだろう?」
腕のあたりが、熱を帯びてきている。
「そう。隠していた技は……自爆さ。まあボクが死なない程度の、だけどね」
「八ツ橋、離れろ!!」
あいつも人間だろう? そんなことをしたら、命もろともなくなってしまうというのに。
「……爆弾、稼働」
爆発。
眩い光に覆われ、俺は爆発に巻き込まれた。
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