第19話 炎の匂いと爆弾使い
【
その間にも着々とレベルを上げ、更なる強敵に対抗できるような実力をつけていった。
「ハアッ!」
オークの腹を黒剣で切り裂く。
一回の攻撃力では倒れないので、連続で剣を入れる。
とくに反撃を喰らうこともなく、オークは魔石を残して消失してしまう。
「さすがです、竜司さん。屈強なオークをあんなやすやすと」
「いやいや。八ツ橋がいるからこそ、思い切った動きが取れるんだ。自分だけの実力じゃあないさ」
じっさい、俺は何度かモンスターに腹を裂かれちまった。
その度に八ツ橋の治療を受け、立ち直れている。回復術師がいるに越したことはない。戦いやすさが段違いだ。
とはいうものの、こんなハイペースで進んで平気なのかと不安な節もある。
「そういえば、この辺りって何か匂いませんか?」
「匂う?」
「鼻につくような、焦げ臭いがするんです」
あたりの匂いを、意識して
「本当だ」
「わかりましたか? この階層に来てからというものの、ずっと気になってたんですよ。共感をもらえて何よりです」
「それなら早くいってくれればよかったのに」
「いったところで解決しないじゃないですか。いまは……匂いに耐えきれなくなっただけです」
モンスターの仕業だろうか。この階層に火を吐くモンスターがいたっておかしくない。
「どこから匂ってきてるんだろうか」
「かなり近いと思います。ふだんよりツンと鼻にくるので。探ってみますか」
「わかった、いってみよう」
モンスターの奇襲に備えて、【神竜融合】を発動しておいた。炎を使う相手なんて、厄介なものだからな。
原因を探るべく、八ツ橋主導でダンジョン内をうろつく。
「かなり近いですね……」
短い間隔で、爆発音が何度も聞こえる。
爆風がこちらまで来ているらしく、髪がふわりと揺れる。
「それなのに、まるでどこにいるかわからないなんて。どうなっているんだ」
姿が見えない敵ほど怖いものはない。いつ殺されるかわからないからだ。
「引き下がるか?」
「撤退はしません。本当に敵だとしたら、ここですぐに殺されていると思うので。そして何より、人間の気配が近いんです」
八ツ橋は回復術師。
人に生命力を流し込むのだ。生命力の流れが感じ取れたっておかしくない。
「……わかった、先に進もう」
匂いの原因に、さらに近づく。
暑い……。
ただでさえ熱気がすごいというのに、竜の鱗を纏っているんだ。
不快な感覚だ。意識が
枝分かれした道をいくつか越えると、俺たちは開けた場所に出た。天井がこれまでよりも高い。
「やけに静かですね……」
モンスターや冒険者はいないらしい。とはいえ、俺は警戒を緩めたわけじゃあなかった。
彼は、ダンジョンの開けた場所で、俺の目の前で死んだ。
死ぬかもしれない、というわけではない。
ここには、強力な「何か」が潜んでいるような気がしてならない、ということだ。
目に見えないだけで、近くに必ずいる。俺の直観が、そう叫んでいる。
そもそも、八つ橋の見立てでは、ここに何かしらの生物がいるはずなのだ。
「匂いも、音も、気配も。じょじょに薄れているように思います」
「このあたりにいるはずなんだがな……もう少しこのあたりを散策してよう。俺が先にいく。気配が近づけていたら合図を頼む」
「もちろん。ふたりでひとつのチームですから」
暑さは収まりつつある。相手の行動は、中断されたと考えていいはずだ。
敵の気が緩んでいる隙に、勝負を決めてやる。
「化け物でもなんでも出てくればいい。この黒剣で、切り刻むだけだ……」
鞘から黒剣を引き抜いた。
八ツ橋の方まで、三百六十度、意識を飛ばしておく。死角を作ったら負けだからな。
「……人の言葉を話せる魔物が存在するとは、初耳だよ」
八ツ橋ではない、別の声。中性的な声だった。
どこから聞こえた?
ぐるりと周囲を見渡すも、やはり答えは変わらない。
「それにふつうの探索師もいる。魔物と人間が交流するなんて、これもまた初耳だ。知らないことばかりだよ」
モンスターではない。この声は、人間のものだ。
「それではさっそく、腕試しといこうか……!!」
剣を構え直し、攻撃に備える。
姿を見せるのはいつかと、唾を飲んで待つ。
小さな爆発が、連続して起こっていた。俺と八ツ橋を、大きく囲む円状に。
爆発は続く。同心円状に、じわじわと爆発が迫り来る。
……まずい。
一刻も早くここから抜け出す必要がある。
爆発した場所は火の海だ。そこを突っ切るにも、距離が長すぎて、八ツ橋に身の危険が迫る。
背に腹は変えられない。
人竜融合を解除し、八ツ橋を乗せて爆炎の上部を通過する。爆心地から離れると、ようやく声の主は姿を見せた。
天井の方から、ふわりと降りてきた。てっきり地面の上だと思っていた。思い込みは危険なものだ。
あいつの格好は、ゴスロリと表現するのがしっくりとくる。赤を基調とした、ワンピースのような感じだった。
「魔物でありながら利口なんだね。飼い主のお姉さん、手懐けるのが上手かったのかな?」
どうも、あのゴスロリは俺をモンスターか何かと勘違いしているらしい。
……厄介だな。
「て、手懐けるって……? 彼はただの仲間です。魔物なんかじゃありません。手懐けた覚えもありません」
八橋が反論する。それに続き、俺も
「おい、あんた。俺は人間だ。きちんと竜司という名があって……」
「へぇ。ドラゴン、つまり竜だからリュージ。なかなか安直なんだ。黒い犬にクロとつけるのとさほど変らないみたいだね。ますます人間を装う魔物にしか見えなくなってきたよ」
ダメだ、逆効果だったらしい。
「そうだね、やっぱりボクは君と戦うことになりそうだ。ノーとは、いわせないよ?」
口でわからないというなら、戦ってわかりあうしかなさそうだ。
「その勝負、受けて立つ」
「いい返事だ。こんなに威勢がいいのは初めてだよ」
そういうと、あいつは腕を広げた。
両手には、いくつもの爆弾が握られていた。
「名乗っていなかったね。ボクは
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます