第15話 凶悪集団【迷宮神話】と【無限強化】のボス

 戦いが終わって達成感に浸ったのち、外にいた男の救出にとりかかっていく。八ツ橋はしゃがむと、傷口に手を当て治療をはじめた。


 さすがはサンダースライムの生命力を根こそぎ奪いとった八ツ橋。疲れる様子も見せず、【完全治癒パーフェクトヒール】を使っていく。


 しばらくすると、男の指がピクリと動いた。助かる見込みはありそうだ。


「あと少し」


 他の部位も動き出し、ついに瞳が開かれる。


「ここは……ああああぁぁ」


 その双眸は恐怖に支配されていた。体を震わせ、後退りしていく。


「大丈夫か、あんた?」


「やめろ、俺は死ぬ、もうじき死ぬんだ…… うわあぁぁ」


 完全に気が狂っていた。夢でも見ているんだろうか。


「何を恐れてるんだかさっぱりだが、俺たちはお前の敵じゃない。むしろ彼女は意識を失っていたあんたを救ったんだぞ? 感謝の言葉くらいあったっていいだろう」


「本当に、あんたらは俺を襲ったりしないのか?」


「初対面の男を前に突然襲撃するような頭のイッちまった連中じゃないから安心してくれ」


「それは、それはよかった。私はに殺されずなかったからな」


「あの傷はスライムにやられたんじゃ?」


「いいや、まったくそんなことはない」


 あの焦げが、サンダースライムによってできたものではない、だと?


「別のモンスターか」


「いいや、モンスターじゃない。


 他の探索師にやられたとでもいうのだろうか。探索師同士での潰し合いなど、殺し合いと同義じゃないのだろうか。


 刃や魔法をぶつけていいのは、対象がダンジョンから湧き出るモンスターだからだろう。人が人に手を下すことほどひどいことはない。


「なぜ、なぜなんだ」


「探索者ばかり狙う凶悪集団、【迷宮神話ラビリンスミス】とかいう野郎たちの仕業だ。上級の冒険者と同等くらいの連中がうじゃうじゃいる。いきなり標的となったもんだから、必死に対抗した。でも、まるで太刀打ちならなかった。格が違うんだよ。勝ってこなかったさ、あんな化け物には」


 とはいっているものの、彼の実力があまり高くなかったために負けてしまっただけかもしれない。上級の冒険者と同等という言葉も、本当ヵどうか怪しいところだ。


「【迷宮神話ラビリンスミス】…… 私、きいたことがあるわ」


「八ツ橋、詳しく教えてくれないか」


「ここ一ヶ月以内で急浮上してきている荒ぶってる連中。母体数が一気に膨らんでいってるみたい。特に、ボスが信じられないくらい強いの。いろんな方面から情報が入ってきたけど、相当危険そう。ボスは巷じゃ、【無限強化インフィニットエンハンスメント】なんて呼ばれてるくらい。尋常じゃないくらいに日々強くなってるそうなの」


無限強化インフィニットエンハンスメント】、どこか【早熟アーリーブルーム】と似通ったものを感じる。


 八ツ橋がサンダースライムによる生命力の循環から新たな学びを得たように、似たような能力から学べることはきっと多いだろう。


 人に対して攻撃をおこなうような腐った連中の顔を見ておきたい。そして、【無限強化インフィニットエンハンスメント】の真相を、確かめておきたい。


「その話、興味深いな。俺はその集団のことを調べたいと強く思った。八ツ橋、着いてきてくれるか」


「私は危険だと思います。万が一のことがあって赤城君が倒れれば、共倒れになります。そしてないより、まだ会ってまもないんです。正直、ホイホイと着いていきたいとは思えません」


 つい勘違いをしていたが、まだ八ツ橋と出会って全然経っていない。即決で共闘関係になることは決まったが、初っ端から無茶な戦いを強いられるのは、彼女にとって厳しいものだろう。


「わかった、もう少し後になってから考える。さて、ダンジョンから出るか。あんた、情報ありがとうな」


「いや、こちらこそ助けてもらった身ですから。またいつか」



 男は手を振り、立ち去ろうとする。こちらも振り返して、扉の方へ踵を返した刹那。男は、誰かと体がぶつかったようだった。別の探索師か?


「みーつけたぁ。ちょっとそこのお兄さん? どうしてアレックス様の炎魔法を受けたのに傷ひとつないんだろうな、なんでだろうな?」


 ぶつかったのは、柄の悪そうな長身の男。両耳に複数のピアスをかけている。服の配色は毒々しい。頭の上にはカチューシャのようなものをつけている。


「【迷宮神話ラビリンスミス】……!」


「それがどうした。そんなことより、こちとらイラついてんだよ。さっきまでビクビクしてたあんたが今や傷ひとつないってことにな! 今度こそ、俺のレベルのために死んでもらう」

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