第13話 階層ボス【サンダースライム】
八ツ橋を仲間に引き入れたのは得策ではなかったかもしれない。だが、一度決めてしまったからには断るわけにもいかない。
「あの、ここからの帰り方ってわかりますか?」
「悪いが、ここまでどう歩いてきたかなんてさっぱりだ」
「実は、私もで……」
ということは、俺たちは階層のボスを倒してここから出ていかなくちゃならないわけだ。
【
戦闘能力を有していない彼女は、正直心細い。もし彼女に攻撃が当たってしまったら。
あの解説を聞く限りでは、回復した分のエネルギーが失われるという。自分の体に適応した場合だと、プラスマイナス0になるのだろう。
優れた回復能力の代償は、体内からの魔力の喪失と自分には適応できないこと、時間がかかること。
大所帯であれば八ツ橋は重宝されるだろうが、少数だと足枷になってしまうことも考えられる。
「階層ボスとの戦いだ。少しでも怪我をしたら危ない。できるだけそちらを気にかけて戦うが、できるだけ攻撃が当たらないように動いておいてくれ」
「はい、わかりました」
ほんとうに治癒能力しか使えないのであれば、この戦いでは八ツ橋は指を加えているままになるのだが。
「おい神竜。どうにかならないのか」
『彼女のユニークスキルが治癒能力しか有していないのだ。そこにうまく派生さえすれば、攻撃系のスキルが手に入ってもおかしくないだろう。そこまでは様子見が一番だ』
「才能があったとしても、未熟なままじゃ何もわからないってことか」
『汝のいうとおりだな。今の状態ではなんとも』
勘に従って歩いていく。ボス部屋がどこにあるかわからない以上、こうやってただ歩き回るしかない。
ふと、彼女はいきなり方向転換をして、走り出した。
「八ツ橋、どこにいくんだ?」
「人が……人が!」
駆け足で追いつこうとすると。
ボス部屋の、扉。そして、その前でひとりの男が倒れていた。
「大丈夫ですか?」
身体中が焼け焦げていている。彼女の問いに対する応答はなかった。
「いまから、この人を救わないと…… 私の感知能力にひっかかった以上、見殺しには出来ないから」
「感知能力?」
「怪我をしている人がいる場所を、直感的に感じ取れるんです。ざっくりな位置しかわかりませんが。竜司君のことも、同じように感知能力で見つけたんです」
「そんな能力が」
どうして都合よくヒーラーが現れたのかと思っていたが、そういうことだったのか。
「急いで救わないと……!」
「いや、ここで無闇に回復魔法を使ってみろ。八ツ橋の体が持たないだろう。こいつが魔石を持っているという保証はないんだぞ。人の命も大事だ。だが、自分の命を投げ打ってでも救うべきだと思うのか?」
「それは……」
厳しいことをいっただろう。だが、今の状況で回復されると、正直この先の階層ボス戦に響く。見たところ致命傷ではなさそうなので、今は放置しておき、魔石が手に入った時点で救うべきだろう。
今は救うべきときではない。
八ツ橋は焦げた男に視線を下ろして少しすると、決断した。
「今は、階層ボスが先、というのが賢明ですね」
「ありがたい。さあ、いくぞ。」
ドアに手を触れ、中に入る。
「神竜もな」
『私は汝が入れば勝手に入るから安心しろ』
「わかったよ」
ボス部屋の中にいたのは、一体のスライム。大きさは高さ二メートルほどの巨大なスライム。透明な体は黄色く染まっている。体の外側にビリビリと電気を流している。
属性は、雷で間違いないだろう。やけどをしていた男は、こいつの攻撃を直に受けてしまったと見ていいいだろう。
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サンダースライム Lv75
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あの食中植物より強いくらいか。とはいえ、油断はできない。電気系統の技を使ってくるとなると、接近戦は少し厳しいだろう。
となると、遠距離になるのだが。
今はそんな技をひとつしか持ち合わせていない。しかし、あれをアイツに打ち込むのはもったいない。凄まじくMPを削るあの技をホイホイ打っていると、スキルを使えなくなるのは時間の問題だ。
「神竜、遠距離技は手に入らないのか? 【早熟】というユニークスキルがあるっていうのに」
『危機的状況に陥らなければ、スキルの取得は難しい。だが、手に入れさえすればサクサク強くなることは保証しよう。そうやってユニークスキルというものは他とバランスをとっている』
タダでサクサク育つわけじゃないということだ。【
サンダースライムは、さらに電気を放出し、バチバチ火花を散らしている。
「さあ、戦うとしよう──────八ツ橋、後ろで見ててくれ」
「わかりました」
「【人竜融合】!」
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