第12話 回復術師・八ツ橋心優の【完全治癒】

 空飛ぶワシを撃破したのち、出会ったひとりの少女。

 背は俺の首元くらいの低く、華奢だ。どこか幼なげではあるが、大人しそうな雰囲気だ。白のロングコートを羽織り、下はミニスカとタイツを履いている。

 手には杖のようなものを持っていて、体の前についている。


「さすがに名前も知らない君から治療を受けるのは、少し気がひけるな」

「自己紹介、したほうがいいですよね。わ、私、八ツ橋心優やつはしみゆうといいます。ヒーラーをずっとやっていました」

「俺は赤城竜司あかぎりゅうじ。隣にいるのは相棒の神竜だ。よろしく。そういえば、『ヒーラーをやっていた』っていうのは?」

「私、あるメンバーとダンジョンを攻略していったんです。でも、つい先ほど、メンバーであることが難しくなって……」

「それは大変だったな……」


 さすがにヒーラーだけでダンジョンに潜ることはないだろうからな。

 ヒール以外の能力があれば、話は別なのだが。


「私、治癒能力しか使えないんです。ユニークスキルは【完全治癒パーフェクトヒール】というもので。自分でいうのも何ですが、かなり治癒に優れているんですが」

「それなのに、どうしてメンバーから外されたんだ?」

「屈強な男ばかりで、すぐにモンスターを倒せていたんです。私の出番自体がほとんどなくて、本当に必要なのかということになって。追い出されてしまいました。私の能力が、使い勝手が悪いせい、というのもありますが」


 回復能力持ちは、RPGとかでは重要な役割を果たすはずだ。

 そんな貴重な人材を追い出すだなんて、どれだけ他のメンバーの頭が悪かったのだろうか。

 たとえ今はどうにかなっても、これから必要になることもじゅうぶんに考えられるはずだ。


「その、【完全治癒パーフェクトヒール】っていうのは、詳しくいうとどんな能力なんだ」

「名前の通り、対象者の傷を治す能力です。じっさいに、その腕で試してもいいですか」


 俺は指示を受けて腕を差し出すと、彼女はそこに手を置いた。


「八ツ橋心優が命じる。かの者の傷に、大いなる癒しのあらんことを。【完全治癒パーフェクトヒール】」


 すると、俺の傷ついた腕から青色の光が放たれはじめた。

 次第に傷は塞がっていき、抉られた箇所の肉が再生していく。

 現実の物理法則を超えた力を目の当たりにした俺は、つい感心して動けなくなってしまった。


 数分もすると光は消えた。怪我なんてしていなかったかのように、腕の痛みは消えていた。


「すごい、完全に治っている……」


 そういうと、彼女はいきなり顔を真っ青にして倒れた。


「おい、八ツ橋!」


 倒れてくるところを介抱する。


「私の能力……は……自身の生命力を……分け与える。すぐに効かない、そしてすぐに生命力の補充がひつよ……ゴホッゴホッ……ねえ、魔石ってない? あいにく切らしているから」


 俺は魔石なんて売っ払ってしまったのでない。

 どこかに……。


 地面をよく見ると、ワシのいた位置に魔石が落ちている。


「使うしかねえ」


 ゆっくりと彼女を床に寝かせ、走って魔石を取りにいく。


「これを、どうすれば」

「口に、入れて」


 こんな硬いもの、食えたもんじゃないと思うのだが、どうするっていうんだ。


「【吸収ドレイン】」


 魔石が一瞬で液体となる。それを彼女はグッと飲み込んだ。

 そのおかげか、徐々に顔色がよくなっていった。


「私が力を使った後には、魔石でエネルギーを補充しないといけないの。魔石がカネになるからダンジョンに潜っているのに、たかが回復のためにそれを使わないといけない。しかも軽い怪我だとしても回復速度が遅い。ちょっと不便なの、私。だから、どのメンバーとも長く続かなかった」

「そんな過去があったんだな」

「そうね。どうも赤城君、お一人さんみたいじゃん。せっかくなら私と組んでもらえないかな」

「俺にはさっきまで仲間がいた。でも死んだ。俺の近くにいると、八ツ橋まで死ぬかもしれない。俺はおすすめしない」


 兄も、古海のおっさんも死んじまった。

 八ツ橋は、見ているとどこか守ってやりたいと思ってしまう。誰かがついていないとダメな気がする。


 でも、そんなことを思っちゃダメなんだ。そしたら、別れが来たときに悲しくなってしまう。だから、仲間にしたらダメだろう? 


「私は、ここで稼がないと生きていけない。これまでは他のメンバーの配当のおこぼれをもらって生きてきた。私は回復に魔石を使う上に、攻撃もできない役立たず。いわば金食い虫みたいなものだった。きっとこれからどこにいっても、同じように厄介がられる」

「理由にもなっていないな。諦めた方がいい」

「それでも、私。竜司君に守ってほしい。次にどこかの仲間になって配当をもらえる保証なんてない。だから、守ってほしい」


 わがまますぎる。守ってほしいから一緒にいてくれ? 

 とはいえ、泣きそうな瞳でじっと見つめられてしまっては、心が揺らいでしまう。


 俺は、少し考えたのち、答えを出した。


「……来たいならついてくればいい。報酬の一部を分けてもいいだろう」

「やった、ありがとう。竜司君」

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