第10話 絶望と探索師の運命

 ハエトリソウを撃破した俺は、古海を探すことにした。第五層にいるということらしいが、いったいどんなモンスターと戦っているのだろうか。

 はじめから支部で落ち合うことにすればもう少しうまくいったはずだが、どうしてそうしなかったのだろうか。いまさら後悔したところでどうしようもないのだが。


 別れ道をうまく抜けていくと、部屋のような空間に出た。正方形型になっていて、中は通路同様、松明で照らされている。

 ど真ん中にはピラミッドらしき図形の壁画があった。他には何も置かれていなかった。しかし、どうも俺にはひっかかった。


「神竜、ここに隠しギミックとかってないか」

『ある、とは断言できないが、ダンジョンにはそういう要素もある。一定の条件下でしか入れない部屋など無数に」


 ためしに、壁画に触ってみる。なぞってみたり、タップしてみたり。


「うーん……」


 部屋の中をぐるぐると歩いてみる。歩きながら考えていけば、何か思いつくだろうか。残念ながら、歩いているだけでは、アイデアなど出るわけがなかった。


 しかし。


 ゴゴゴゴゴ…… 。


 壁画のあった壁が、ひとりでに横にスライドしてはじめた。ずれた先には、隠し通路があった。

 石畳で整備されていて、これまでの砂で埋め尽くされた道とは大違いだ。


『特定の動きをすることで開かれることもある。運があったな、汝よ』


 もしかしたら強いモンスターと出会えるかもしれない。相手が強ければリスクは高まるが、勝てば高いレベルの向上が望める。

 最強に至るためには、多少のリスクだって伴って当然だ。最悪、神竜に乗って逃げればいい。


 足を進ませ、石畳の道を抜けていく。抜けた先は、コロッセオのようだった。

 狭い野球グラウンドくらいはあるだろう。これまでのダンジョンのイメージとは大違いだ。


「ん?」


 広々としたコロッセオの奥で、何か戦闘がおこなわれている。

 敵は、ゴーレム。土でできた巨体で襲いかかっている。俺はその様子を確認するため、近づいた。


「君! なぜここにいる!」

「古海さん!?」


 ゴーレムと戦っていたのは。なんと、あの古海だった。


「貴様は秘密を見てしまった…… 消されることこそ運命……」


 ゴーレムは低い声でそんなことをつぶやきながら、拳で古海を攻める。

 ゴーレムのステータスを確認しておく。


 ──────────────────

 ゴーレム Lv500

 スキル 【戦闘領域バトルゾーン】 ターゲット以外との戦闘を許可しない。効果はどちらかが戦闘不能になるまで続く。

 ──────────────────


 Lv500……。


 今の自分のレベルとは、圧倒的に違いすぎる。長年の年季がある古海だとしても、こちらより成長スピードは遅いはず。確実に、戦力差があるといっていいだろう。


「古海さん、俺が応援に入る」

「だめだ、君。これは私の戦いだ」

「だって、あれは」

「あのゴーレムは、ターゲット以外との戦闘を許可しないスキルがある。半径10m以外に私以外が入ることは不可能だ」

「でも……!」


 勢いのままに10メートル以内に入ろうとする。だが、見えない壁によって跳ね返され、それは叶わない。

 叩こうとも斬ろうとも、先には進めそうになかった。


「まるで歯が立たん……!」


 そうはいうものの、古海の動きは完璧だった。

 ゴーレムの単純な動きは、先回りした短刀や古海の身のこなしで当たらずに済んでいる。

 古海の攻撃は、ときどき入っているものの、効いている様子はまるでない。


 古海は、すでに汗まみれだった。ここに来る前にも長い間戦っていたことがうかがえる。


 戦況は、絶望的だ。


 【第六感シックスセンス】があっても、実力差をほとんど埋められないのだから。

 ゴーレムの動きが鈍ったのをみた古海は、すべてを悟ったような顔で、こちらに視線を送った。


「このモンスターとエンカウントしたのは、私の自己責任だ。勝手に真実を求めようとしてしまった罰だ。私のレベルでは、確実に勝てるはずもない。だから、最後にひとつだけいわせてほしい」

「古海さん、まだ、まだ諦めちゃ……」

「いいんだ。もう【第六感シックスセンス】で答えは見えているからな。未来予知は未来がわかるだけで敗北しないわけではないからな。最後にいおう。君は」


 短剣でゴーレムの拳を抑えながら。


「自身の運命を越えて、壮大な目的を果たせ」


 重みのある拳が、短剣を折る。直後、拳は古海に向かって振るわれた。

 地面が砕かれ、あたりは砂埃で覆われる。それが薄れたとき、目の前では絶望が広がっていた。


「古海さん!」


 ゴーレムの姿はすでになく、残ったのは潰された古海の体のみ。

 血が地面に染みつき、内臓の中身まで出てしまっている。

 思わず俺は吐いてしまった。


 落ち着いたところで、俺は古海に駆け寄る。

 その凄惨な死体から、首だけがきれいになくなっていた。

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