第8話 階層ボス【死神】

「この層の出口で最も近いのは、ボスを倒した後に開ける通路だ。危険だが、やってみるかい、君」


 俺もずっとここに潜っているわけにはいかない。危険が伴うのは覚悟の上で、古海の提案に乗ることとした。


 ボス部屋までは幸いにもモンスターは出てこなかった。ただ、体感で数十分は歩いたように思う。少し長い道のりになった。


「この層のボスは、少し厄介だ。私の【第六感シックスセンス】にかかればどうということでもないが」


「どんなボスなんだ」


「【死神】。骸骨の体で、黒いマントを羽織っているやつだ。細長い鎌を振り回してくる野郎だよ。体がスカスカだから、なかなかとらえどころがないよ」


「弱点は、あるのか」


「やつの体には、唯一攻撃がとおるコアがある。そこを叩けば、ダメージは入る。逆にいえば、そこ以外を叩くとダメージは入らないと考えたほうがいい」


 剣による攻撃が通るなら安心だ。条件が厳しくとも、勝算がないわけじゃない。


「それなら、いける」


「スピードに追いつけさえすれば、だな。叩けるチャンスは少ない。なんせコアの位置は一定のタイミングで変化するからな。いけると思ったタイミングで、しっかり攻撃をうちこむ。それだけだからな」


「了解」


【人竜融合】をした状態で、俺はボス部屋の扉に触れた。


 中は三層のときと似たような構造だ。神竜がいた場所に、【死神】と思われるモンスターが、鎌を持ったまま下を向いて待機している。


 ──────────────────

 死神 Lv 50

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 こちらはレベル75だが、相手の動き方が厄介そうなので、レベルという数値の殴り合いにはならないだろう。

 とした

「ウ……ウウゥゥゥ……」


 壊れかけのロボットのようなぎくしゃくとした動きで顔が上がる。


 マントの中からは骨だけしかないスカスカな体がよく見える。


「くるぞ……」


 俺は黒剣を構えて相手の動きを待つ。目はこちらが見た限りなさそうだ。顔の骨は空洞から先に何もない。


 足はなく、まるで幽霊のよう平行移動してくる。


「君、コアは今、心臓部分にある。一気に仕掛けるぞ。私の援護に回れ」


「はい!」


【死神】は、はじめに敵意を見せた古海の方をターゲットとした。


「その先の行動は、読めている!」


 古海は走り出し、近づく【死神】のコアに短剣を伸ばす。


 しかし、敵の動きは予想以上に速く、短剣は軽々とかわされてしまう。


「かわされた……?」


「いいや、これも計算に入っている。少し長い戦いになるだろうから、集中力を切らすなよ」


「……ウウゥゥゥ」


「はやいッ!」


 古海の剣戟はじょじょにスピードを増していく。【死神】の心臓を捉えたと思ったときには、すでに別の位置に移動されてしまっている。


 移動速度は古海が剣を振るうほど速くなってしまう。ときどき鎌に衝突してかなりの金属音を響かせてしまう結果となっている。


 はやく俺も戦闘に参加したいところだが、あのスピードの中で割り込んでも迷惑にしかならない。


 未来予知の能力を手に入れたいと望むも、今回はうまくいかなかった。


「一八五手目、ここでようやく。隙が生まれるのは読めているッ!!」


 古海の短剣に、血がつく。


【死神】の動きはそこで止まった。心臓部分を捉えたらしい。


 立ち止まって動かなくなっているところをみてみる。剥き出しになった心臓の、浅い部分しか切れていない。中からぼんやり赤い光を放っているのは、きっとコアの証だろう。


「ウウウゥゥ……」


「君。次は君がターゲットになるらしいな……」


 心臓にあったコアは、今度は頭部へと移る。古海が攻撃を試みるが、完全にスルーし、こちらにターゲットが移った。


 鎌を持って構える、【死神】。


 未来予知の能力、【第六感シックスセンス】なら、あのすばやい動きにも耐えうることができた。


 じゃあ、俺はどう戦えばいい? でたらめに剣を振るって隙を見せれば、鎌で突かれてお陀仏だ。


 やはり、新たな能力が必要になる。でも、さきほどは手に入らなかったはずだが……


『汝、なぜここまで私を頼らなかった?』


「……神竜!」


『あれは闇属性のモンスター。弱点は光属性の浄化系のスキル。なら、それを使えばいい』


「でも、俺はスキルを使えないはずじゃ……」


『私を通してスキルを発動する、という手段を忘れていたな。MPを消費すれば、光属性のスキルは発動できる。急いで【人竜融合】をとけ』


 命令通りにすると、目の前には、神竜が現れた。


 <MPを150消費して、【殲滅魔導追尾砲・光】を発動しますか?>


 答えは、イエス。


 どうもまた、コアの位置が変わったらしい。ターゲットは、神竜。


「いけ、神竜! 【殲滅魔導追尾砲・光】!」


 神竜は咆えると、一筋の光を【死神】めがけて放った。

 逃げ回っていくが、それを【殲滅魔導追尾砲・光】は逃さない。


「ウウウ……!?」


 コアを正確に射抜き。【死神】は光に消えた。


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 第四層ボス 【死神】を撃破

 レベルアップ:なし

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「これは、なんという力…… こんなものまで隠し持っていたとは……」


「はじめて、こうやって光線? を放出させた。俺も、正直驚いている」


「本当に、ダンジョンに潜って一日目とは到底思えないね」


 さっきのは、【早熟アーリーブルーム】ではなく、竜の力

 によるものだった。


 まだ、ユニークスキルの凄さがはっきりとはわかっていないのが残念だ。バックステップの覚醒以上のことがないと、まだ真価は問えなさそうだ。


「さあ、しばらく待っていると、この部屋に階段が現れる。そこをのぼっていけば、支部には戻れるよ」


 それまでぼんやり待っている間に、ひとつ疑問が浮かぶ。


 なぜ、今回はレベルアップをしなかった?


 これまでの結果から、モンスターを倒せばレベルが上がり、対人戦での勝利ではレベルが上がらないとはわかっている。


【死神】もモンスターのはずだ。それなのに、どうしてだろうか。


 竜の力を使ったから? それなら竜騎士になること自体も竜の力を使っていることになるからな……


「君、次はいつ会える?」


「退学だとか、いろいろごたつと思うんで、三日後くらいに」


「そうか。私は明日以降、第五層を彷徨いている。いたら声をかけてくれ。さっきは危なかったが、私はこう見えてもベテランだ。死ぬことはないと思ってもらいたい」


「慢心はまずいんじゃ?」


「問題ない。私には【第六感シックスセンス】がついているのだから」


 なぜか古海の言葉を、俺は素直に受け取ることができなかった。



 階段を登り、行きと同じような通路を抜け、白い光に包まれると。


 いつの間にか、ダンジョン支部に戻っていた。神竜もこつぜんと姿を消している。


「お疲れ様でした」


「おお、マリちゃん。きょうは新入りが大活躍だった。かなりの期待株といったところだ」


 迎えてくれたのは、例の受付嬢だった。マリさんというのか。


「着替え等を済ませたのち、売るものがあればこちらへ」


 魔石を売り、換金したのちに支部を出た。古海は俺とは逆方面だった。


「またな、君」


 古海は背を向けながら手を振り、街に消えていった。


「じゃあな、古海のおっさん」

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