第2話 ダンジョン、入ります!

「竜の力って何だよ……」


 兄さんがダンジョンで死んだと聞いてから一日が経った。

 帰ってからというものの、食事は喉を通らない。

 ショックは大きかったらしい。


 現在、夜中の三時半。約束の時間まで、あと一時間半だ。

 ダンジョンは支部のすぐそばにある。赤城家から歩いて一時間ほど。


 俺は身支度を終えると、自転車に跨いだ。

 ダンジョン支部につくには、三十分もかからなかった。

 近くの駐輪場に停めたのち、受付へとむかう。


「あなたは、きのうの……」


 きのうあった受付嬢だった。


「赤城竜司です」

「大変申し訳ありませんでした。ほんとうに、心ないことを……」


 どんよりとした表情で、彼女はうつむく。


「いいんです。もう、踏ん切りがついたので」

「強がらないでください。ほんとうに、すみませんでした」


 頭を下げられてしまい、たじろいだ。

 すぐに頭を上げてもらい、気にしないでください、と念押す。


「それでは、きょうはどのような用件で」

「【ステータスバンド】を作りに。探索師になりたいんです」


 ダンジョンに入って戦闘をするものを、人は探索師と呼ぶ。

 ダンジョンに入るには、【ステータスバンド】が必要となる。


【ステータスバンド】は、身分の証明の他に、「ステータス」を表示する機能がある。

「ステータス」は、探索師の能力を数値化したもので、レベルやスキルの表示があるという。ダンジョンの仕組みは、ゲームと似通っているらしい。


「竜司くん。ひとつだけ確認させて。探索師は、あなたが思うほど甘くない。君のお兄さんのようになる人は少なくない。死と隣あわせの世界に、踏み込む覚悟はあるの?」

「はい。兄を越える探索師になりたいんです。兄と同じように、ここで死ねるなら本望だとさえ思っています」

「あなたの『意思』ではなく、お兄さんの『遺志』ではないですか。気持ちの整理がつかず、冷静な判断を欠いているようにもみえます。ほんとうにいいんですか?」


 俺は一度瞳を閉じ、上をむく。

 そして、視線を戻して瞳を開く。


「俺には、ここでやらなくちゃいけないことがあるんです。俺だけにしかできないだろうことが。兄の遺志もそうですが、それ以外に覚悟につながる理由があるんです。だから、俺はひきません」


 ダンジョンを崩壊させたいという衝動だけが渦巻く。

 覚悟なんて、まだない。

 覚悟は、これからつければいい。


「……わかりました。【ステータスバンド】、作りましょう」


 ライセンスを作り終え、いよいよダンジョンへと迎うことができる。貸し出された探索者用の服とブーツを身に纏った。荷物をリュックに詰め込み、貸されたナイフを握る。これでモンスターと戦うらしい。


「それでは、奥の通路へ」


 こちらから見て、受付の右側に非常口らしきものがあった。

 受付嬢に案内され、先をゆく。


 薄暗いまっすぐな一本道。

 等間隔に設置された松明を頼りに、先へ進む。


 数分歩くと、道が開けた。

 目の前に、大きな木造りの扉がある。真ん中にリングが取り付けられていた。


「扉のむこうがダンジョンです。ここから先は異空間になっていて、こちらから干渉することはできません。脱出する際は、これと似たようなドアを見つけて開けてください。入ってすぐが第一層、そこから地下へ行くと、第二層、三層……となっています」

「脱出用のドアはどこにあるんですか」

「ランダムです。ダンジョンは常に変わり続けますから。自動でモンスターが沸き、壊れた壁も自動で修復します」

「説明するより、体験したほうがわかりやすいでしょう」


 リングを捻り、ドアを開けた。

 ドアの先は、洞窟のようだった。

 さきほどと同じように松明が横にあり、奥まで続く。


「第三層の最深部ってことは、この二つ下ってことか…」


 いくつか曲れそうな道はあったが、数分歩くと、階段が現れた。

 らせん状のそれを下った先は、また同じような道。


「おかしいな、モンスターの一体も現れないってか」


 まっすぐ進む。

 下へ続く階段は、さきほどの入り口方向にあった。


 第三層をしばらく歩くと。


「扉?」


 今度は開けるためのリングがない。

 試しに、手をかざしてみる。

 すると、俺は白い光に視界を奪われた。


「なにッ?」


 光の先にあったのは、ボス部屋のような広々とした空間。

 そのど真ん中に、黒い竜がいた。


『汝か、竜の力を求めしものは』

「そうだ、俺は力を求めている」

『汝の名は』

「赤城竜司。赤城王牙の弟だ」

『……わかった、リュウジ。君に【ユニークスキル】を与えよう』

「ユニークスキル?」

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