第54話

「もう絶対にお化け屋敷なんて行かないから!」


 お化け屋敷を出て直ぐに近くのベンチに陽愛を座らせた。

 さっきまで陽愛をお姫様抱っこしていたから周りの視線も少しある。

 お陽愛さま抱っことも言えるな……


「なんでお化け屋敷になんて行ったのよ! バカ、バカ!」


 陽愛の目にはまだ涙がたまっている。

 あれほど叫んでいたんだから泣いてて普通か。

 

「いや、陽愛が行くって言うからだろ?」

「じゃあ止めてよ! 何で止めてくれなかったの!?」


 陽愛は両手を軽く握り胸の前に持っていき、そう言ったが、俺はちゃんと止めた。


「何言ってんだよ、ちゃんと止めただろ」

「もっと強く止めてよ!」

「そんな無茶言うなよ……」


 記憶がおかしくなるくらい怖かったのか?

 

「まぁ、蒼汰ももっとちゃんと止めておくべきだったな」

「お前な……俺はちゃんと止めてただろ。お前まで陽愛と一緒でおかしくなったのか?」

「馬鹿言え、俺があのレベルのお化け屋敷に怖がるとでも思ってるのか?」


 斗真がお化け屋敷に怖がるとは思えない。

 

「冗談だよ、お前がお化け屋敷なんかに怖がるとは思ってねぇよ」

「ちょ、ちょっと待ってよ! お化け屋敷なんかって、私の事バカにしてるの!?」


 陽愛は泣いて怖がったお化け屋敷の事をなんか呼ばわりしたことに怒っているらしい。


「馬鹿に何てしていないよ。ただ斗真は怖いもの平気なだけで、陽愛は苦手なだけ」

「ば、馬鹿にしていないなら良いけど……」


 まだ陽愛には少し不満が残っているみたいだ。


「別に怖いものが苦手だからってダメなわけじゃないだろ?」

「そうだけど、なんか馬鹿にされてると思っちゃったの!」

「だったらごめんな」


 こういう時はまず謝る。これが一番いい。


「なんか私三人の中に入れる自信ないんだけど……」


 少し不安そうな声色で妃菜ちゃんはそう言ってくる。

 確かに俺達三人の関係は長い。その中にいきなり入れと言われても難しいのかもしれない。


「大丈夫だよ、妃菜ちゃん。斗真も居るんだから」

「そうだぞ、俺が居るから大丈夫だ。蒼汰は少し怖いかもしれないけど、悪い奴じゃないからな」

「何言ってんだよお前、何処からどう見ても怖くないだろ」

「冗談だよ、冗談」


 斗真はバカにした笑い方をしてきた。少しイラっとするが、まぁ黙っておくとしよう。

 今まで誰かに怖いなんて言われたことのない俺だ、怖いはずがない。

 それに怖かったら斗真は俺に何て絡んでこなかっただろう。


「やっぱり入れる自信ないんだけど……」


 妃菜ちゃんは苦笑いをしながらそう言った。

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