第53話
お化け屋敷に入って何分が経っただろうか……多分一時間くらいが経った。
陽愛は俺の腕を抱きしめたまま離さない。陽愛からこんな強い力が出るとは思わなかった……
「陽愛、もう目開けても良いよ。それに多分もうすぐ出口だから」
「ほ、本当に⁉ 絶対だね、言ったからね!」
「ああ、言った。多分とも言った」
陽愛はゆっくりと目を開けた。
「ねえ! 絶対ここダメだって! 絶対出るってぇ~!」
「まぁ、お化け屋敷なんだから怖くないところなんてあまりないんじゃないか?」
「さっきもう開けて良いって言ったじゃん!」
「さっき言っただろ? ここを抜けたら教えてあげるって」
確かに俺はあの場所を抜けてから陽愛に目を開けても良いと言った。
「きゃああああああぁ! 何か聞こえる! 絶対聞こえる! 早く! ねぇ早く行こ! 出口早く~!」
もう何十分もこんな大きな声を出しているというのに全く声が枯れていないとか……
「あ、あれ出口じゃないのか?」
斗真が懐中電灯の明かりで出口であろう小さな光がある場所を照らした。
「ほ、本当に!? 蒼汰! 早く行くよ! ほら、早く‼」
さっきまでは俺が陽愛を引っ張って歩いていたのが、出口が近くにあると分かった瞬間立場が逆転。
陽愛は俺を思いっきり引っ張ってきた。
「ちょ、ちょっと陽愛、もう少し慎重に行かないと――」
「ぎゃあああああああああぁ‼」
言わんこっちゃない。
お化け屋敷の最後、特に出口が見えると油断する人もいるから、運営側からしたら驚かせるには絶好の場所だろう。
「も、もうダメぇ~」
陽愛は完全に全身の力が抜けたかのようにこの場で崩れた。
「ちょ、ちょっと陽愛、大丈夫か?」
「ひ、陽愛ちゃん大丈夫?」
妃菜ちゃんも陽愛の事を心配して陽愛に手を伸ばしてくれた。
「た、立てない……ご、ごめんなさい……」
「…………しょうがない、か」
「ちょ、ちょっと蒼汰!? な、なにしてるの!?」
俺は陽愛を持ち上げた。
見た目通り軽い。あまり力のない俺でもそこまで辛くはない。
ちゃんとご飯食べてるんだろうな?
「ね、ねぇ蒼汰。恥ずかしいよ……」
「じゃあ歩けるまでここにいるか?」
「そ、それも嫌だ……」
「じゃあ我慢してくれ」
そう言って俺は出口へと歩き始めた。
「へぇ~、蒼汰くん、お姫様抱っことは大胆だねぇ~」
「こうする以外に何かあったか?」
「それもそうだね」
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