第52話
お化け屋敷の中は当然真っ暗だ。
陽愛は中に入ると同時に俺の腕を鷲掴みにして小刻みに震えている。
妃菜ちゃんと斗真が先頭を行き、後ろから俺と陽愛が付いていく。
ひゅぅ~という不気味な音が響くたびに陽愛は俺の腕を強く握る。
「ね、ねぇ蒼汰。スマホのライトも付けちゃダメかな? 良いよね、ねぇ良いよね!?」
「ダメに決まってるでしょ!? それにライト一つあれば十分でしょ」
今にでも灯りを付けようとする陽愛を止める。
真っ暗と言っても道はちゃんとわかるし、入る前に懐中電灯を一つ渡されている。
「うぅ~」
陽愛がそう言った瞬間、俺の隣にある壁がガタガタと音を立てた。
それと同時にお化け屋敷の中に陽愛の悲鳴が響く。
「きゃあああああぁ~‼ も、もう無理! 早く行こう! 早く出よう!」
「ちょ、こんなにしがみ付かれたら歩けないって」
陽愛は俺を物凄い力で抱きしめている。
歩こうにも歩きづらくてしかたがない。
しばらく進むと赤黒い文字で『たすけて』『やめて』『開けるな』と書かれた扉があった。
「じゃあ開けるぞ?」
「やめて! 開けないでぇ!」
陽愛は必死にそう言うが、斗真は扉を開けた。
すると開けた瞬間に真っ白な服に赤黒い汚れが付いた服を着た女の人が本気で俺達を脅かせにきた。
「うわぁあ‼ いやぁああああああ‼ もういやぁ~‼」
遂に陽愛は泣き出した。
何度ももう無理、もう無理と言い続けているが、入ったら最後、出口まで行くしか出ることはできない。
「だ、大丈夫だよ陽愛。人間だから大丈夫」
もう陽愛にはこう言わないと落ち着かせることはできない。
「人が一番怖いの‼」
「お、おう…………」
なんだか納得してしまった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ‼ うわぁあ‼」
次々と驚く出来事に毎回陽愛は外にまで聞こえているんじゃないかと思うほどの悲鳴を上げ続けている。
一方妃菜ちゃんの方は陽愛とは真逆で笑顔でお化け屋敷を楽しんでいた。
陽愛からこんな大きな声が出るとは正直思ってもいなかった。
やはり無理にでも止めた方が良かったか……
しばらくしてまた扉があった。
次はさっきと同じ色で『さようなら』と書かれてあった。
次は妃菜ちゃんが扉を開けた。
今度は何も驚かせて来ることはなかった。
ただ、部屋には赤い血が付いたベッドが幾つか置いてあり、さらには首をつっている真っ白な人型の者があった。
「え、え⁉ こ、ここ進むの!? 無理無理無理! 絶対嫌だ! いやぁああああ~‼」
もう陽愛は自分の胸が俺に思いっきり当たっていることなんて気にしないで抱き着いてきている。
「陽愛、大丈夫だから」
俺は陽愛の頭を何度も撫でて落ち着かせようとするが、お化け屋敷側はこんなことは許さないといわんばかりに不気味な音を出してくる。
「大丈夫じゃない! 絶対大丈夫じゃない‼」
「じゃあ目瞑ってて。俺が陽愛の腕引っ張っていくからここ抜けたら教えてあげるよ」
「ぜ、絶対だよ!? 絶対に離したらダメだからね! 離したら本気で怒るからね!」
「分かったよ、分かってるから目瞑ってて」
俺がそう言うと、陽愛は分かったと言って目を瞑った。
「進んでも良いか? 蒼汰?」
「ああ、ごめんな」
そう言って俺たちは部屋に足を踏み入れた。
そしてゆっくりと進む。
首をつっている真っ白な人型の所まで行くと、不気味な女の子の声が響く。
『たすけて……』
「ぎゃああああああああああぁ‼ もういやぁあああああ~‼」
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