恋人になって初めての

第45話

「そういえば陽愛、もう決めたの?」


 蒼汰との海デートを終えた次の日の朝。

 私はお母さんと机を挟んで向かい合って座り、朝食を食べているとそう聞かれた。

 昨日は帰ってきて直ぐにベッドで眠りについてしまった。流石に蒼汰も昨日の電車の中ではキスをしてくれなかった。そりゃ誰が見てるか分からないもんね。

 逆にいくら人が少ないと言っても、電車の車内でキスをするなんて普通に考えてちょっとって思う。

 

「決めたって何を?」


 そんな急に言われても何のことか分からないから答えようがない。

 けれど私は何も決めるようなことはしていない。


「何って、もうすぐ八月十四日よ?」

「八月十四日? ……もうすぐ夏休み半分終わっちゃうの!?」


 時間の流れの速さに驚いた。これがジャネーの法則ってやつかな?

そんな事を言うと、お母さんがため息を吐いて呆れた表情で私を見てきた。


「何言ってるの。そんな事よりももっと重要な事があるでしょ?」

「もっと重要な事……? …………あ! 蒼汰の誕生日だ!」


 最近楽しい出来事ばかりですっかり忘れていた。

 彼女として、彼氏の誕生日を忘れていたなんて絶対ダメなのに。

 私のバカ……


「まさか、本当に忘れてたの?」

「だ、だったら?」


 するとお母さんはさっきよりも深いため息を吐いた。


「しょ、しょうがないじゃない! 最近楽しい事ばかりで浮かれてたの!」 


 私は胸の前で両手をブンブンと振り必死に抵抗をした。

 確かに忘れていた私が悪いけど、そんなため息つかなくたっていいじゃん……


「それで? 何プレゼントするのか決めたの? って、まぁ決めてるわけないよね」

「う、うん……」


 私と蒼汰が付き合い始めてから初めての蒼汰の誕生日。だから蒼汰も少なからず期待しているはず。

 どんなプレゼントがもらえるのかとか、そもそも祝ってもらえるのか、とか。

 

「ねぇ、どんなプレゼントが良いと思う?」


 こんな時に頼りになると思うのはお母さん。

 

「そんなの陽愛が決めないと。お母さん、蒼汰くんの欲しいプレゼントなんて知らないもん」

「確かにそうかもしれないけど、でも男の人が喜ぶプレゼントとか教えてよ~」


 少しでも蒼汰の喜ぶプレゼントを渡したい。だから少しでもお母さんからヒントが欲しい。


「う~ん。でも蒼汰くん、陽愛からのプレゼントならなんでも喜んでくれると思うけどなぁ~」

「そんなわけないじゃない」

「いいや~、男の人って案外単純なのよ。まぁ私達女も単純かもしれないけどね」


 それはある。私は凄く単純だ。

 蒼汰から少し優しくされただけでもっと好きになっちゃう。


「そうだね」

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