第44話

 もうすぐ夕日は地平線へと消えて行ってしまう。

 さっきまで綺麗なエメラルドグリーンだった海は、夕日に照らされて赤く照らされている。


「なぁ、陽愛」


 私の隣で蒼汰が小さな声で私を呼んだ。


「どうしたの?」

「もし水に光を吸収する性質が無かったらさ、海って七色になってたのかな?」

「本当にどうしたの急に?」


 蒼汰の急で意味の分からない質問に私はもう一度そう言ってしまった。

 

「それよりも水って光吸収するの!?」


 今度は私が蒼汰に質問をする。

 そしたら蒼汰はゆっくりと頷いた。

 

「だけど青は光の波長が短いから吸収されにくいんだよ。だからこの海だって青い」

「でもでも、今は赤いよ?」

「太陽が離れてるからだよ」

「離れてたら吸収されないの?」


 私が質問ばかりすると、蒼汰は「ん~、ちょっと違うかな」と言った。


「太陽が離れれば離れるほど、光の波長が長い赤色が目立つんだよ」

「そうなんだ。ちょっと分からないけどなんか分かった気分」

「で、太陽って七色でしょ? だからもし水にそういった性質が無かったら七色の水ができるのかなって思って」

「そんなの分からないよ~。でも七色の海って想像すると凄くへん」

「確かに変だね」


 蒼汰はそう言って立ち上がった。

 そして私に手を差し出してきた。


「暗くなる前に帰ろっか」


 私は「うん」と言って蒼汰の手を掴んで立ち上がった。

 蒼汰の手を借りなくても立てるのに蒼汰の手を握ってしまう。

 蒼汰と手を繋ぎたいっていう私の想いが行動に出てしまったのかもしれない。

 ここから駅までは結構近い。

 けれど久しぶりの海でテンションの上がっていた私はもうクタクタで歩く速さが遅く、少し遅くついてしまった。

 

「ギリギリ間に合ったね」

「ごめんね、私が遅いから」


 なんとか電車には間に合った。

 電車内は人が全くおらず、私も蒼汰も座席に座れた。

 疲れている私にとっては凄くありがたい。

 流石に立っているのは辛い。


「別に良いよ。間に合ったんだから。それに疲れちゃってるなら仕方ないよ」

「うん。ありがとう。ねぇ、蒼汰。もたれてもいい?」


 そう聞いたけど、私は蒼汰の返事を聞く前に蒼汰の肩に頭を乗せた。

 

「疲れちゃった」

「うん。良いよ。眠ってて、着いたら起こすから」

「ありがとう」


 そうお礼を言って私はゆっくりと目を閉じた。

 眠りにつく瞬間。蒼汰が私の頭を撫でてくれたのは分かった。

 前一緒のベッドで眠ったのに頭をなでなでして抱きしめてくれる以外何もしてくれなかった蒼汰だから多分今回も何もしてこないかな……

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