第43話
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
水平線に沈みそうになっている夕日を見ながらそう思う。
本当に時間はあっという間に過ぎる。楽しければ楽しいほど早く。これほどまでに夕日が沈まなければ良い。そう思ったのは初めてだ。
「もうすぐ夕日、沈んじゃうね」
さっきまで海に居た陽愛は俺の横に座りながら寂しそうに言った。
今まで何度も夕日は見てきた。でも、これまでで一番綺麗な夕日だと思った。何故かは分からない。もしかしたら陽愛と、彼女と初めてちゃんと見た夕日だからかもしれない。
俺は今日一日の出来事を思い返す。最初にビーチボールでただただパスを出し合うだけの遊び。それだけでも楽しかった。でも、それを見ていた他の高校生の集団が俺達に一緒にビーチバレーをしないか? と声をかけて来てくれた、どうやらちょうどあと二人欲しかったらしい。
それが本当かは分からない。もしかしたら陽愛目的だったかもしれないが、俺が居るのにそんな考えにはならないはずだと思い、俺と陽愛も参加させてもらった。
初めてビーチバレーをしたのだが、砂浜だと勢いよくジャンプもできないし。風でボールがどこに落ちるか分からず、結構難しかった。でも、楽しかった。
「ビーチバレーって私初めてやったなぁ」
「俺も初めてやった。結構難しいんだな、あれ」
俺と彼方は目を合わせることなく、ただただ夕日を眺めて思い出を話し合う。
「あとは一緒に砂でお城作ったっけ」
「最後は波に崩されちゃったけどな」
「そうだね、せっかく上手にできたと思ったのに……この間見た花火みたいだね。作るのに時間がかかるけど崩れるのは一瞬な所が……あ、ねぇねぇ。写真撮ろうよ!」
その一瞬を写真という形で残すことで、人はその時の事を思い返すことができる。
陽愛は忘れたくない出来事はなるべく写真を撮ることにしているらしい。
「確かにこんな綺麗な夕日は写真に収めたくなるな」
「今まで見た夕日の中で一番綺麗。蒼汰が居るからかな?」
陽愛は視線を夕日から俺に移し、笑顔でそう言った。
夕日に照らされた陽愛の笑顔もまた、凄く美しかった。
「ねぇ、蒼汰。この水着ね。蒼汰ために新しくお母さんと買いに行ったんだよ?」
「陽愛の水着姿が見れるならどんな水着でも良いんだけどな」
俺は素直に今思ったことを口にしてしまった。
すると陽愛は耳元で――
「えっち」
と囁いてきた。
「しょうがないだろ、陽愛が可愛すぎるのが悪いんだ」
「わ、私のせいなの⁉」
「冗談だよ。俺が悪かった。気分悪くしたならごめんな」
「別に蒼汰なら良いよ? そもそも蒼汰に見てほしくて買ったんだし、この水着。もっとよく見ても良いんだよ?」
そう言って陽愛は俺との距離を詰めてきた。
「もう十分見たよ。陽愛の可愛い姿は」
なんなら今日一日ほとんど陽愛の事を見ていた気がする。もう今日が終わってしまえば次に陽愛お水着姿が見れるとしたら一年後だ。しっかりと目に焼き付けておいた。
「陽愛に告白されなかったら、この景色も見れなかったんだな」
「私だって、あの時蒼汰に告白を断られていたら見れなかったかもしれないよ?」
一つ一つの選択の結果が今だ。
一つでも違う選択をしていたらこの景色は見れなかったかもしれないし。海にも来なかったかもしれない。
花火だって毎年同じように家の窓から小さく見える花火を眺めるだけだったかもしれない。ならこの一瞬一瞬は奇跡のようなものだ。
「ねぇ、我儘言っても良い?」
陽愛は視線を再び俺から夕日に移した。
「我儘? 何?」
「また来年も海来ようね。一年後はもっと可愛くなれるように頑張るから」
「いや、今でも十分可愛いでしょ」
「もっと、もっと可愛くなるの! 蒼汰も可愛い彼女の方が良いでしょ?」
「別に俺は陽愛がただ可愛いから好きってわけじゃないよ。まぁ可愛いに越したことはないんだけど。陽愛と一緒に居るとなんか、安心するんだよ」
自分で言っていて恥ずかしくなった。
何時から俺は陽愛をこんな事を言うようになったんだ?
「…………わ、私も。蒼汰と居ると安心する」
陽愛の顔は赤く染まっていた。それは夕日のせいかどうかは分からない。
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