第42話

「凄く綺麗だね」


 私はパイナップルジュースを手にそう呟いた。

 目の前に広がる透き通ったエメラルドグリーンの海は物凄く綺麗。

 海なんて久しぶりに来たから、ここまで海が綺麗だとは思っていなかった。

 人が沢山いるから水着姿のままだと恥ずかしいから羽織ものを着ている。

 

「うん。こんな綺麗だとは思ってなかったよ」

 

 隣に座りながら蒼汰はそう言った。

 海の方を眺める蒼汰の横顔を見てあることを思った。

 もし私が居なくなったらどんな反応するんだろう……

 いつもは私が恥ずかしい思いをして、蒼汰にそれを見られている。だったら私だってそれくらいの事しても良いはず、だよね?

 心配してくれるかな……? 必死に探してくれるかな……?

 でもどうやって蒼汰から離れよう。

 そんな事を考えていると、蒼汰が突然立ち上がった。


「ごめん、ちょっと手洗い行ってくるから待っててくれ」 


 丁度いい機会がやって来た。

 

「うん! 行ってらっしゃい」


 私は笑顔で蒼汰に手を振った。

 

「よし!」


 私は蒼汰が遠くに行ったのを確認すると、そう言って立ち上がった。

 流石に一人でそこらへんに隠れるのは怖い。

 だから私は女子更衣室の近くに隠れた。もし誰かが絡んできても直ぐに女子更衣室に逃げれるように。

 とりあえず蒼汰が来るまでは女子更衣室の中で時間を待った。

 数分が経ち、蒼汰の姿が見えた。

 蒼汰は私がベンチからいなくなっていることを確認すると、焦ったように周りをキョロキョロと見渡した。


「ふふ。焦ってる、焦ってる。可愛いな~」


 見たことない蒼汰の姿に私は少し笑ってしまった。

 蒼汰はしばらくすると「陽愛ー!」と私の名前を叫びながら歩き始めた。

 嬉しかった。

 蒼汰があんな一生懸命私の事を探してくれて。

 『陽愛もお手洗いに行ったのかな?』って思われたりするかと思っていたけれど。あんな一生懸命な蒼汰はあまり見たことがない。

 私、大切にされている。

 そう実感できた。


「そろそろ出て行ってあげないと可哀そうだよね」

 

 もう何分が経っただろうか。流石にずっと私の名前を呼んで歩かせてしまうのは可哀そう。

 私はゆっくりと蒼汰の元へと近づいた。

 まだ気づかない。蒼汰の真後ろに来たというのに気付いてくれない。

 私は蒼汰の肩をポンと叩いた。


「ごめんね、ドッキリでした~。……ッ!」


 私がそう言うと、蒼汰はいきなり抱きしめてきた。

 蒼汰の予想外の行動に私は状況を理解できなかった。


「え⁉ ちょっと、蒼汰!?」

「無事でよかった」


 蒼汰は私の頭を優しく撫でながらそう言った。

 

「本当に心配したんだからな」

「……ご、ごめんなさい…………」


 思っていたよりも蒼汰は私の事を心配してくれていたらしい。


「陽愛は可愛いんだから、いつ変な人達に絡まれてもおかしくないんだから。心配させないでよ……本当に無事でよかった……」


 蒼汰の言葉を聞くと、さっきまでの私の行った事が蒼汰をどれだけ心配させることだったか分かって申し訳なくなってしまった。

 私は謝ることしかできない。

 少し考えればわかることだ。私だって恋人が急にいなくなったら不安になって心配するに決まってる。私なら泣いていてもおかしくない。


「ごめんなさい」

「もう良いよ。陽愛が無事ならそれでいいよ。それに、俺だって陽愛を一人にさせたんだから、俺も悪いよ」

「そんなことない! 全部私が悪いの。もうしないから」


 もう蒼汰にこんな思いをさせたくない。

 

「俺も、陽愛を一人にさせてごめんな、もう一人にはしないから」


 蒼汰のその言葉に私は色々な感情が浮かんだ。

 私をこれまで大切に思ってくれていると実感できた嬉しさ、そしてそんな私を大切に思ってくれているのに心配させるようなことをしてしまった私のバカさに呆れて罪悪感も沸いた。


「もうそんな顔しないで、お互い悪かったってことでおしまい。せっかくの海デートなんだから楽しもうよ」

「う、うん!」


 私は少し涙を浮かべながら答えた。

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