第38話

「日焼け止めよし! 水着よし!」

 

 蒼汰と約束していた海デート当日。

 私は約束の時間ギリギリまで持ち物のテェックなどをしていた。

 こんな大切な日に忘れ物なんて絶対にしちゃいけないし。

 部屋に置いてある姿見で服装のテェックをする。

 真っ白なロングワンピースで動きやすいし夏を感じさせる服装にしてみた。

 髪も今日はミドルポディションのポニーテールにしている。


「陽愛―! 蒼汰くん来てるよー!」


 玄関の方からお母さんが私に向って大声で言った。

 急いで壁に掛けられている時計で時刻を確認すると、蒼汰との約束の時間丁度だった。


「ごめん! 今行くね!」


 私もお母さんに大声で返す。

 いつもなら私が蒼汰の家に迎えに行くのに、今日は珍しく蒼汰から来てくれた。

 私は蒼汰をあまり待たせるわけにはいかないと、急いでバッグを手に持ち部屋を出た。

 

「ご、ごめんね。おまたせ」

「良いよ、良いよ。俺も結構時間に遅れることあるし」


 蒼汰は笑顔で許してくれた。

 確かに蒼汰も結構時間に遅れてきたりしたことはあったけど、それはそれ、これはこれ。

 今日は私が遅れちゃったんだからちゃんと謝らないといけない。蒼汰も遅れてきたらちゃんと誤ってるし。


「ありがとう、蒼汰」

「うん、じゃあ行こうか」


 そう言って蒼汰は私に左手を差し出してきた。

 私はその手を握って蒼汰と並び、最寄りの駅へと向かった。

 今日はあまり日差しは強くなく、普段と比べれば比較的涼しい方だ。


「なんか、髪の毛しばってる陽愛って新鮮」

 

 私は滅多に髪をしばることはない。

 蒼汰の前ではほとんど髪を下ろした状態でいた。


「えへへ、今日はめずらしくしばってみたんだ~」

「髪の毛しばってる陽愛も可愛いね」

「そ、そうかな……」


 よ、良かった~! 可愛いって言ってくれた~。

 蒼汰に「でも俺は髪をおろしてる陽愛の方が可愛いと思うな」なんて言われたら今すぐにでも髪を解いていた。

 ん? 顔が熱くならない……普段なら可愛いって言われたら嬉しくて、恥ずかしくて顔が真っ赤になって熱がこもるのに、今回は何故か顔が熱くならない。

 もしかして、恥ずかしさよりも可愛いって言ってくれたことにたいしての安心感が勝っちゃっているのかな?

 

「ありがと!」


 可愛いって言ってくれたことは凄く嬉しい。

 それに、初めて顔を赤くせずにいられて、さらにお礼まで言えた!

 これって私成長してるってことで良いんだよね!?

 ほぼ毎日お母さんからの攻めに耐えてきたから、少しは耐性が付いたんだよね?

 蒼汰と並んで歩くこと数分。夏祭りの日に使用した駅と同じ駅に到着した。

 今日みたいに何もイベントがない日は全く人が居ないのに、夏祭りなどイベントがある日はあれだけ人が集まる。


「えーっと、電車が来るまでは後二分か」


 蒼汰はスマホで今の時刻を確認してそう言った。


「あまり時間ないから行こうか」

「うん!」

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