第35話

「あ~、美味しかったぁ~」


 カフェからの帰り道、俺の隣で陽愛はお腹を摩りながらそう言った。

 

「ああ、美味しかったね」


 俺は陽愛から一口パンケーキだけでなくチョコレートパフェも貰った。

 勿論文句なしの美味しさだった。


「また一緒に来ようね、蒼汰」

「また空いてる日にね」


 俺もあのカフェのデザートを他にも食べてみたくなった。

 コーヒーもすごく美味しかったし、陽愛とじゃなくても一人で行きそうなまでだ。

 まぁ、陽愛と一緒に行きたいけど。


「ねぇねぇ、蒼汰」

「なんだよ」

「蒼汰のお家に行っても良い?」


 俺たちは今、陽愛の家に向って歩いている。

 陽愛を家に送り届けてから俺は一人でアパートへ帰る予定だったが、陽愛はどうやら俺の家に行きたいらしい。


「良いけど、なんで俺の家? 陽愛の家でも良いじゃん」

「だって……またお母さんに揶揄われるし……」

「そ、そうだな……」


 陽愛の家だと、また陽愛がお義母さんに揶揄われて恥ずかしい思いをする羽目になるだろう。

 俺としては可愛い陽愛の反応が見れるから全然良いんだけど……そんな事陽愛に言ったら間違いなくビンタされる……


「それに、もっと蒼汰と話したいし……」


 陽愛は何か呟いているが、トラックの通る音と重なって良く聞こえなかった。


「何て言ったの?」

「な、なんでもない!」

 

 俺と陽愛は手を繋いだまま数十分歩き、俺の住んでいるアパートへと到着した。

 たった一日だけいなかっただけなのに、何故か懐かしいと思ってしまった。


「ちょっと! 部屋散らかってるじゃん!」


 陽愛は部屋に上がると同時にそう言った。

 確かに最近部屋の掃除を怠っていた。

 そろそろ掃除しないとと思っているが、中々動き出せない。


「も~」


 陽愛は不機嫌そうにそう言いながら部屋を片付ける。


「良いよ、陽愛。後でちゃんと掃除するから、ありがとね」

「良いから、私が掃除してあげる。さっきのカフェで奢ってくれたし」


 陽愛は手を休めることなく部屋の掃除をしてくれた。

 凄くありがたいけど、誰かに掃除をしてもらうのは少し申し訳ないと思ってしまう。

 自分の部屋の掃除くらい自分でしなければいけないのに。

 

「ありがと、陽愛。これからは汚くならないように気を付けるよ」

「うん! それならよろしい!」


 そう言って陽愛はベッドに腰を下ろし、そのまま横に倒れた。

 

「ねぇ、そういえば私と寝ている時に変な事しなかったよね?」

「へ、変な事?」

「そ、そう! た、例えば……」


 そう言って陽愛は自身の胸に手を置いた。


「胸を触ったとか……」

「そ、そんな事してないよ!」

「絶対?」

「ぜ、絶対にしてない!」

「ふ~ん。触っても良いよ」

「え?」

「蒼汰になら触られても良いよ」


 俺は陽愛の言葉を聞いて顔を赤くする。

 そりゃそうだ。可愛い彼女から、君になら胸を触られても良いなんて言われて照れないわけがない。

 

「ふふ、冗談だよ~。ちょっと揶揄っちゃった。ねぇ、期待した?」

「き、期待なんかしてないよ!」


 嘘だ。本当はめちゃくちゃ期待していた。


「え~、それはそれで傷つくなぁ~」

「あ……ご、ごめん」


 確かにさっきの言葉は陽愛に対して失礼だった。


「まぁ、蒼汰なら許してあげる! これは冗談じゃないよ」


 陽愛はそう言って笑顔で許してくれた。

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