第34話

「ん~! 美味しい!」


 陽愛は左手を頬に当てながら幸せそうにそう言った。

 陽愛は砂糖を大量に入れたものの、苦手だったコーヒーを飲みほした。

 そんな陽愛は自身へのご褒美として、ハート形のパンケーキを注文した。

 パンケーキの上には更に苺で小さなハートが作られており、その中を生クリームで埋めている。

 

「やっぱり甘いものが一番!」


 俺にとっては陽愛のこの笑顔が一番なんだけど……

 

「蒼汰も食べる?」

「え? 別に良いよ。陽愛が食べなよ」

「そんな事言わない、言わない~。美味しいよ~」


 陽愛はそう言ってフォークでパンケーキを刺し、俺の口元へ運んだ。

 

「ほら、あーん」


 俺は陽愛に言われるがままパンケーキを口にした。

 程よい甘さの生クリームに甘酸っぱい苺、ふわふわのパンケーキ。そして陽愛からのあーん。

 美味しくないわけがない。

 

「どう? 美味しいでしょ」

「うん。美味しい」


 陽愛は「でしょ、でしょ~」と言いながらパンケーキを頬張る。

 幸せそうに食べる陽愛を永遠に見ていたい。

 もう毎日食べさせてあげたくなってくる。


「どうしたの? 蒼汰」


 ずっと見つめている俺に、陽愛は口元に生クリームを付けながら聞いてくる。


「いや、幸せそうに食べるなぁ~って思って。それと口元に生クリームついてるぞ」

「え⁉ 本当に⁉」


 陽愛は小さな手鏡を取り出し、自身の口元を確認すると「本当だ!」と言って直ぐにふき取った。

 

「ありがと、蒼汰。それと、甘くておいしいものを食べて幸せにならない人なんて居ないよ!」

 

 陽愛は胸の前で両手を握り、必死に伝えてくる。

 なんだこの可愛い生き物は。


「ねぇ、蒼汰」


 陽愛は急に頬杖を付き俺の名前を呼んできた。

 

「何?」

「海に行く約束の事なんだけどね。来週の金曜日はどうかな」


 今は夏休みだし、俺には特に友達が多いわけでもないため、夏休みのほとんどが空いている。

 

「俺は何時でも良いよ」

「なら金曜日に行こ! 私早く行きたい!」


 陽愛は元気で可愛らしい声でそう言う。

 俺だって早く陽愛の水着を…………いや、陽愛と海で遊びたいし…………


「うん。分かった」

「やった!」


 可愛らしい笑顔で喜ぶ陽愛を見ているとこっちも嬉しくなってしまう。


「ねぇ、このデザートも美味しそうだよ!」


 陽愛はメニュー表に載っているパフェを指さしながら言ってきた。


「まだ食べるのか⁉ 流石に太るぞ」

「なっ!」


 陽愛は指をぷるぷると震わせる。

 あ、やべ……女の子に太るぞは禁句だって聞いたことが…………


「蒼汰のバカ! 私食べるなんて言ってないもん! 美味しそうだよって言っただけだもん! それに私まだ余裕あるもん!」

「ご、ごめん。そっか食べないんだな」

「食べる!」

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