第33話

「もう! 本当にお母さんありえない! なんであんな恥ずかしい事言ってくるの!」


 陽愛と俺は近くにあるお洒落なカフェへと『家に居ると陽愛がお母さんにまた揶揄われるだろうから』という理由でやって来た。

 

「まぁ、まぁ。そんな怒らないであげてよ」


 俺は頬を膨らませながら怒る陽愛を落ち着かせようと試みる。

 

「むぅ~。蒼汰がそう言うなら……」

「ご注文お決まりでしょうか」


 陽愛の怒りが少し治まると同時に、お洒落な店員さんが訪ねてきた。

 とりあえず俺はメニュー表を指さしながらエスプレッソコーヒーを注文した。


「陽愛はどうする?」

「私も彼と同じものを下さい」

「他にご注文はありませんか?」


 俺と陽愛は首を縦に振った。

 メニュー表を見て食べたいものがあれば後から注文すればいい。


「少々お待ちください」


 店員さんは軽く頭を下げ、去って行った。

 ん? ちょっと待てよ?


「なぁ、陽愛」

「何?」

「さっき何て言った?」

「さっきって?」

「注文するときだよ」

「え? 蒼汰と一緒のものをくださいって言ったけど」

「大丈夫なの? コーヒー苦手だろ?」


 陽愛は今までで一度だけコーヒーを飲んだことがある。

 俺が陽愛にコーヒーを勧めて一口だけ飲んだが、ブラックコーヒーだったため、苦いのが苦手な陽愛は怒り、それ以降コーヒーは苦手となり口にしていない。

 そんな陽愛がさっき俺と一緒のコーヒーを注文した。


「わ、私だって成長してるんだから! コーヒーだって飲める……はず」


 少しずつ声が小さくなっていっている気がするが……


「お待たせしました、エスプレッソコーヒーお二つです。ごゆっくりどうぞ」


 そんな事を話しているとさっきと同じ店員さんがエスプレッソコーヒーを運んできてくれた。

 陽愛はおそるおそるコーヒーカップを掴んだ。

 

「お、おい。無理するなよ?」

「だ、大丈夫だって」


 そう言って陽愛はコーヒーを啜った。


「……うぅ~、苦い…………」

「はぁ、だから無理するなって言ったじゃないか。エスプレッソコーヒーは苦味が濃縮されているんだし」

「そ、そういうことは早く言ってよ~」


 陽愛は「苦いよ~」って言いながら水を飲みほした。


「ほら、砂糖入れたら少しは苦味も少なくなると思うけど」

「いっぱい入れる~」


 そう言って陽愛はこれでもかと砂糖を入れた。

 流石に入れすぎな気もするが……


「うん! これくらいが丁度いい!」

「どんだけ入れたんだよ」

「さぁ? 美味しくなればどうでも良いの!」


 陽愛はそう笑顔で言いながらコーヒーを啜った。

 俺はそんな陽愛を見つめながらコーヒーを啜る。

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