第30話
時刻は夜の十一時半。
いつもならこの時間帯は普通に起きているが、今日は夏祭りという事もあって陽愛も俺も疲れていて眠い。
久しぶりにあれだけ動いたのだから当たり前か。
「なぁ、本当にするの?」
「なに? 嫌なの?」
「いや、別に嫌じゃないけど。でも流石に……」
「良いじゃん……今日くらい甘えさせてよ」
「いつも甘えてくるじゃん」
「う、うるさい‼ 良いから早く来て」
そう言って陽愛はベッドの空いている場所を叩いた。
俺が風呂から出て髪を乾かし終え、敷布団を敷くために取りに行こうとすると陽愛に止められた。
どうしたのかと聞いても陽愛は中々口を開いてくれなかった。
数秒待ってようやく陽愛が口を開いたと思うと、陽愛は「せ、せっかくなんだからさ……そ、添い寝……しようよ」と、少し恥ずかしそうに言ってきた。
陽愛のベッドは結構大きいため、俺と二人で添い寝しても落ちる心配はあまりない。
で、でも恋人同士になって初めてのお泊りで初めての添い寝は……と思い少し躊躇ったが、陽愛の上目遣いにはやはり勝てなかった。だって可愛いもん。
「わ、わかりました」
俺は陽愛に強く言われて、言われるがまま陽愛の隣に寝転がった。
いざ添い寝をしてみると、思った以上に恥ずかしく、俺の鼓動は物凄い早くなった。
こんな近くに居るからか、陽愛の髪からはシャンプーの凄く良い匂いが俺の鼻孔をくすぐる。俺も今日は陽愛と同じシャンプーとコンディショナーを使ったはずなんだけどな……
「な、何よ……」
「あ、いや。なんでもない。ごめん」
「別にダメって言ったわけじゃ……ただ蒼汰がずっと私の事見つめてくるから……どうしてかなって思って」
「な、なんでって……」
可愛かったからなんて言えるはずがないだろ。
こういう時は何て言えばいいんだ? 誤魔化すにしてもどう言って誤魔化せばいいんだ?
なんでもないって言っても陽愛は多分「そんなことないでしょ。何⁉」って聞いてくるに決まってる。
もう素直に言うのが一番良いか。
「…………可愛かったから………………」
予想していた通り、陽愛は恥ずかしそうに布団で顔を隠す。
この行動はあまりにも可愛すぎる。
今すぐにでも抱きしめたいくらいだ。
「だ、だから~、私がこういうの苦手なの知ってるでしょ……」
勿論陽愛が押しに弱いことは知っている。
だけど素直に言うしかなかったんだから仕方がない。
「いや、でも陽愛が何って言ったから」
「そ、そうだけどさ……」
陽愛はそう言ったまま中々布団から顔を出さない。
「蒼汰、眠い……」
「急だな。眠いなら眠っても良いのに」
「でもまだ眠りたくない。今日が終わるまでは眠りたくない。ねぇ、何か話してよ」
「何かって言われても……そういえば、今日花火見た場所って斗真から教えてもらったんだってね」
「斗真くんから聞いたの?」
「まぁ、さっき斗真から夏祭りはどうだったかってメッセージが来て、それで色々あって教えてもらった」
「そうなんだ」
俺にはある疑問があった。
あの場所は斗真から教えたのか、陽愛が斗真に聞いて陽愛に教えたのか。
「なぁ、陽愛が斗真に花火が良く見える場所が無いか聞いたの?」
俺が質問すると、陽愛は首を横に振った。
ということは斗真が自ら陽愛に教えたって事か。でも何でそんな事を。
「斗真くんが二人で花火見るならあの場所が良いよって教えてくれたの」
「そうだったんだ。斗真に改めて礼言わないとな」
斗真のおかげで陽愛と二人っきりであんな綺麗な花火が見れたんだ。
「そうだね」
そして俺はもう一つ陽愛に聞きたいことがある。
「あと一つ聞きたいことがあるんだけどさ」
「何?」
「俺たちが付き合ってることを皆に隠さないで言うって、何時どうやって言うの?」
夏休みが終わって直ぐに俺と陽愛から皆に「私達付き合ってるんだ」って言うのもって思うし。
「それは付き合ってるの? って聞かれたら正直に話すってことで良いんじゃないかな。一人に話せば多分学直ぐ学校中に広まるだろうし」
「そうだね。そうしよ」
学校内での情報は物凄いスピードで行きかう。もし一人に俺と陽愛が付き合っていることを教えれば二日……いや、一日で広まるだろう。
「ねぇ、蒼汰。次はどこに行く?」
「次?」
「うん。夏休みはまだ始まったばかりなんだから、もっと二人で遊びに行こうよ。デートしようよ」
夏休みはまだ約一か月ある。
「夏祭りは終わっちゃったから~、次はやっぱり海とか?」
海……陽愛と海に行けば陽愛の水着姿が見れるのか⁉
海に行くんだから見れるんだよな⁉
「うん! 海良いね! 行こう!」
「…………ねぇ、蒼汰」
「な、何?」
「今、絶対私の水着姿想像したでしょ……」
「なっ!」
陽愛に思っていることを当てられて言葉が詰まる。
「別に良いけど~。蒼汰がえっちなのは知ってるし」
「そ、そんなことないわ!」
そんなことある。
間違いなくある。
「どうかな~。だって私が蒼汰に告白した日だって私の下着見たじゃん」
「た、確かに見たけど……」
確かに見た。まだはっきりと覚えている。
けれどあれは陽愛があまりにも無防備だったからであって俺にだけ非があるかと言われれば違うと思う。
「見たけど?」
「あ、あれは仕方ないと言うか……」
「女の子の下着を見て仕方ない理由あるんだ?」
「だってあれは陽愛が無防備だったからでしょ?」
「別に無防備だったわけじゃないもん」
陽愛曰く無防備ではなかったらしいが、俺からしたどう考えても無防備だった。
けれどこれ以上陽愛の機嫌を損ねるわけにはいかない。
ここは俺が謝るのが正解だろう。
「分かったよ。俺が悪かった、ごめん」
「別に良いよ~。蒼汰になら見られても」
「ッ‼」
そう言って陽愛は俺に抱き着いてきた。
「ちょっと陽愛! 何急に抱き着いてきてんの⁉」
「良いじゃん。抱き枕になってよ」
そう言って陽愛は俺の胸に顔をうずくめた。
な、何この状況。俺も陽愛を抱きしめていいのか⁉ 陽愛の頭撫でても良いのか⁉
「私が眠るまで抱きしめさせて」
「ど、どうしたんだよ急に。なんかおかしいぞ陽愛」
「お、おかしくなんかないもん!」
そうは言うものの、普段の陽愛からはこんな言葉は出てこない。
困惑している俺だが、陽愛の抱き枕にならなりたいと思ってしまっている。
陽愛に抱き着かれたまま眠れるなんてこれ以上ない幸せな事だし。
陽愛はそう言った後、数分して眠りについた。
壁に掛けられている時計を見ると、時刻は十一時五十八分。
陽愛の言っていた今日は眠りたくないという願いは後少しの所で叶わなかったが。俺からしたら無理しないで早く眠ってほしかったから良いのだけど。
俺は眠っている陽愛の頭を何度も優しく撫でた。
サラサラで綺麗な髪、そして小さな頭。
流石に眠っているからと言ってキスをする勇気は俺にはまだない。
「おやすみ。大好きだよ、陽愛」
だから俺はそう伝え、眠りについた。
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